学長の部屋|ブログ|― Vol.45-64

投稿者:西日本工業大学 第11代学長 片山憲一


 

■Vol.64 2022年4月20日更新

価値を測る「モノサシ」を増やす

これまでは目標に向かって準備すれば成功する確率が上がると言われていましたが、社会が複雑になり将来の予測が困難な時代を迎えて、目標さえ設定できずに事前の準備や予習をして成功することが難しくなっています。今回のロシアのウクライナ侵攻でも「武力で領土を拡大しない」というルールが全く無視され、異なる歴史観や価値観と言うモノサシで戦争が始まり、両者の話がかみ合わずお互いが怒っています。予想問題を解いて準備し試験で70点取ったら合格というような単純なモノサシが通用しない時代になっているのです。

人は、相手の価値観が自分とは明らかに違う場合や理解不能でなおかつ自分が正しいと思っているとき、また「うまくいかないとき」「失敗したとき」に怒りを感じます。今の時代、怒りを感じたら「もしかしたらゲームやルールが違うのではないか」「間違っているのは自分の方ではないのか」と立ち止まって考えるチャンスです。社会が複雑化し多様性が進む現代は価値を測るモノサシが変化したり増えたりしているからです。自分は固定したモノサシで測っているのではないかという気づきがあれば相手との関係も良くなります。

また、どうしてうまくいかないのか考える過程で自分のモノサシを増やすことができ課題発見にもつながります。大学時代に「自分はこう考えてこう答えを出した」というプロセスを繰り返してうまくいかない経験を積み、新しいモノサシや課題を見つけることが大切です。課題はこれからの目標にもつながります。

自分はここが弱点と従来のモノサシで見て二の足を踏むのではなく、体験を通じて見つけた新たなモノサシで測り「自分にはこんな強みもあったんだ」と気づくことです。遊びと思われがちの「eスポーツ」を教育に取り入れたのもそのためです。幸い大学には試行錯誤や失敗が許される環境があります。大学を気づきがある「知的好奇心を揺さぶる場」にしたいと考えています。

注)多様なモノサシの存在に気づいた後は、細谷功著「地頭力を鍛える」(東洋経済新報社)をお薦めします。
 


 

Vol.63 2022年4月5日更新

オンライン配信で気になった世代間分断

今ではすっかり定着したオンライン授業、旨く出来るか、効果が上がるか議論していた2年前を遠い昔のように感じます。コロナ禍、本学でも卒業式や入学式の入場者数を制限したこともあり式典の様子をオンラインで配信しました。実況中継したのは情報デザイン学科の学生たちです。事前にマイクやカメラを準備し式典で流す映像データを確認、本番も手際よくこなしてばっちり配信できました。考えてみれば彼らが物心ついた時にはスマホが身近にあり、今やユーチューバーやライバーが「職業」になる時代なのです。

戦火のウクライナからゼレンスキー大統領の説得力ある映像や避難民の自撮り映像が連日のようにニュースに登場しています。かつて通信衛星を使って小倉城の映像を大阪に送るプロジェクトに関わったことがあるのですが、中継車とともに多くのプロ技術者が来て準備に時間を要したことが嘘のようです。

話は変わりますが「戦時下プーチン大統領の支持率が83%に上昇」というニュースと同時にウクライナ侵攻について「明確に賛成する」と答えた人が55歳以上では64%だが24歳以下は29%と低かったことが報道されました。マスメディア全盛時代に育ち大人になってからパソコンやインターネットに触れた世代にとってSNSは新たなオプションの一つですが、スマホネイティブの若者にとってはSNSが当り前で、マスコミは操作されているかもしれないとも感じている存在なのです。

今回、学生のオンライン配信を見てIT技術の進歩と若者のITリテラシーの高さを再認識しました。これまで大人の感覚でフェイクニュースや自分に心地よいニュースばかりを見るフィルターバブルに気をつけるよう学生に注意してきましたが、大人の自分たちこそ「マスコミを鵜呑みにして大丈夫?」と心配になりました。今や学生たちも大人、彼らとしっかり意見交換して世代間の分断を埋め、時代に対処しなければと感じました。

 


 

■Vol.62 2022年3月22日更新

不便だからこそ得られる益

川上浩司著「不便から生まれるデザイン」(DOJIN選書)を読みました。不便で良かったことや不便でなければ気付かなかったことを日常の中で見つけ、不便益をシステム的に分析して工学に活かすことが書かれた本です。不便益とは不便の益のことです。例えばマニュアル車は面倒な操作が多く不便ですが、エンジンが回転しているのにタイヤが止まっているという謎もクラッチを踏むことで理解でき、車を制御下に置くことを容易にする益があると紹介しています。

不便の益で一番多く紹介されているのが「気付き」の多さです。新幹線を使って日帰りでお伊勢参りをするのと、歩いて何日もかけてお伊勢参りをするのとでは途中の体験や気付きの量が全く違います。健康を考えて電車で5分ほどの門司~小倉間を歩くことがある私もその不便益を享受しています。次に多いのは不便さが理解を助けると言う効用です。「機械製作実習でシリンダーを作った際、工作機械が手動で不便だったが、NC(数値制御)工作機械では分からなかった機械の仕組みを理解できた」という学生の感想が紹介されています。

「全自動は便利なようだが面白みがない。かといって手動ではロードがかかる。全自動と手動の中間にあって、中途半端でないモノとは何か。ラインの自動化は一見便利だが、工夫を加える余地が減り、作業員のモチベーションや改善意欲も維持できない。全て手作りという訳にもいかない。自動化とモチベーションのバランスをとる指針はないか」などの視点から、不便益の実例を多く集めて分析し、工学に活かすという常識を超えた発想が書かれています。

当然、不便益をシステムとしてデザインする便利な「解」は示されませんが「不便は大切なことであり、人が本来のあり方であるうえで不可欠なもの」という気付きと不便益を活用する視点が紹介されています。便利なモノをデザインするのが工学ですが不便益という「益」もあることを教えてくれた本でした。

 


 

Vol.61 2022年3月10日更新

メンテナンスとアップデート

本学の機械工学系に設備保全コースがあるため車のメンテナンス、身体のメンテナンスなどメンテナンスという言葉に敏感に反応してしまいます。先日も下関~小倉間でJR九州の415系電車(交直両用)が製造後50年以上も現役で走り続けているのを見つけ、車両のメンテナンス現場の苦労を想像してしまいました。メンテナンスの意味は「正常な状態を維持・保全すること」です。

本学がある北九州地域には製鐵所や化学プラント工場を休みなく稼働させることに注力してきた日本メンテナンス工業会の企業が数多く立地し、設備保全人材の求人が多数あります。しかし、大量生産大量消費という使い捨て時代が長く続いたことや、「設備保全」という名称がセンサーやAIを使いこなす分野にも関わらず裏方という地味なイメージがあり、今どきの学生には響かないようです。

ところが昨今、環境問題やモノからコト(体験)への価値観の変化で、新製品に新機能を付加して買い替えを促すというビジネスモデルが変わってきました。例えば、自動車はこれまで時が経つにつれ劣化すると考えられてきましたが、ソフトを更新(アップデート)することで、数年前の車であっても機能を進化させることが可能になっています。テスラ車は1カ月半に1回のペースで新機能の追加に加え、システム変更やバグの修正、航続距離などの性能向上、エンターテイメントコンテンツの拡充などのソフトが更新されています。

現在、設備を長持ちさせるメンテナンス技術は、熟練工不足を補うためデータに基づいて不具合を見つけるセンサーやAIと一体化して進化しています。ここに設備保全コースが目指した視点があり、データサイエンスや機械学習を学ぶのもそのためです。とは言え体験やソフトにお金をかける時代を迎えてメンテナンスの概念が広がっており、ソフト更新や自動化技術も取り入れ、名称も含めて学生に響くコースにアップデートする必要性を感じています。

 

機械工学系 設備保全コース
 

 

■Vol.60 2022年2月25日更新

正解がないことに気づく

失われた30年と言われる長い停滞を続けている日本ですがブレークスルーにつながる妙案は出てきません。長い間、欧米諸国の先進事例から正解を見つけてきた経験から、今回も正解が存在するはずと言う先入観があるのです。しかし課題先進国となった日本にはもうお手本とする正解はありません。私はこの点に気づくことが停滞から抜け出す第一歩と考えています。

残念ながら教育現場でも正解を求める知識偏重型から抜け出せていません。例えば放射線について勉強する場合、イギリスでは「あなたがロンドンからシドニーに行くまでに浴びる放射線量はどのくらいですか」と社会の中でどのように応用するか自分で考えて答えを出す問題が出されています。一方日本では「ラジウムの半減期は1600年です。今、4gのラジウムが1gになるのに何年かかりますか」といった計算問題が出され社会実装の訓練が出来ていません。

それでは正解がないと気づいた後、自分なりの答えを出すにはどうすれば良いのでしょうか? まず課題を自分事として捉え自分で考えて答えを出す癖をつけることです。次に課題を分析する「思考の枠組み」言い換えれば、自分の専門を越えた複数の視点=「教養」を持つことが必要です。なぜなら解決の道筋は、専門分野は勿論、言語、国籍、所属、文化など全く異なる見方をする多様な人たちとの議論を通して見つかるからです。

冒頭の「日本が停滞から脱するにはどうすれば良いか」については、異なる立場の人たちが、視点の違いに焦点を当てて議論を続けた結果、デジタル化の遅れや一極集中の解消が必要という方向性が示されました。政府はデジタル改革や地方分散型社会を打ち出しましたがなかなか前に進みません。多くの人が変化を嫌い、正解は別にあるはずという「場」の空気に流されて政策実現に向かわないからです。自ら考えて答えを出す人材育成が急がれますが、まずは正解がないことに気づくことから始まると考えています。

 


 

Vol.59 2022年2月13日更新

油須原駅のリニューアル

2月10日(木)、福岡県田川郡赤村にある平成ちくほう鉄道の田川線油須原駅のリニューアル式典に参加しました。この田川線(行橋~伊田)は1895年8月、近代化を目指す明治政府の掛け声に呼応して設立された豊州鉄道が豊前国8郡の交通と田川地区の石炭輸送とを目的として最初に開通させた路線です。油須原駅は開業当初からある駅で、2007年に映画化されたリリー・フランキーさんの小説「東京タワー~オカンとボクと時々オトン~」でボクが旅立った駅の撮影場所になって注目を浴びました。

この路線の駅については地域連携の一環として建築学科の石垣研究室が中心となって地域特産の京築ヒノキを活用して毎年一駅ずつリニューアルしています。今回の油須原駅は由緒ある駅ですが資料が散逸していたため、過去の写真などを参考に外観を開業当時の佇まいに近づける努力や「懐かしい」をキーワードに木質の建具やレトロ調の灯具を再現するなど工夫されています。また、地域交流や観光拠点になるよう、本学が持つ最新の制震技術を内部の部屋に取り入れ安全面にも配慮がなされています。

今回のプロジェクトが特徴的なのは学内の取り組みの輪が広がったことです。建築史が専門の水野研究室が駅の実測調査に新たに加わった外、手押し車を使ったコンクリート基礎工事には工学部の土木系の学生と先生が参加しました。機械系の先生も駅で使う電力を小水力や風力、太陽光発電で賄う取り組みに着手、電気系の知見を借りてカーボンフリーの実現に挑戦しています。

行橋駅から油須原駅までは、英彦山から流れ下る今川沿いの風光明媚な田園地帯を走っており、沿線には多様な果物類に加え酒蔵や黒田官兵衛ゆかりの馬ケ岳城址などもあります。今後、発想がやわらかな情報デザイン学科の学生なども巻き込めば、田川線沿線を全国区の観光地にできるかもしれないという「大学発の夢」が膨らんだ油須原駅のリニューアル式典でした。

油須原駅リニューアル油須原駅リニューアル

油須原駅リニューアル油須原駅リニューアル

写真左:制震ダンパー付意匠壁「ビルアンド」

 

[関連情報]

 


 

■Vol.58 2022年1月28日更新

不合理な行動を分析する

長引くコロナ禍は、感染そのものへの対策だけでなく人々に脅威と恐怖を与え、感情的な判断と不合理な行動を生み出しています。専門家や報道機関は冷静な行動について啓蒙を繰り返していますが、感染者数や病院での大混乱ぶりが毎日のように報道されると、ネット社会が人々をより感情的で不合理な行動に導いているように見えます。

18世紀の英国に古典派経済学者のアダムスミスが登場以来、人間は合理的に行動すると仮定して現代の経済学は成り立っています。しかし、私たちはつい食べすぎてしまったり一度決めたことを守らず煙草を吸ったり目の前の欲望を優先して不合理な行動をしてしまいます。また、私たちは社会規範が優勢な世界と市場規範が規則を作る世界を同時に生きており、バイトではしり込みする土砂の撤去作業でも災害時にはボランティアとして参加します。

私たちは朝起きて歯を磨き、雨が降れば傘をさすなど行動の9割5分は過去の体験による潜在意識に基づいて行っています。その潜在意識には間違った思い込みが数多くあることはハンス・ロスリングの「FUCT FULNESS」にある通りです。たとえ正しい情報を得ても、その情報を十分に利用しなかったり、冷静な判断が出来なかったりして不合理な行動を繰り返しています。そこで「人間は不合理な行動をする」ことを前提にして「心理学」を取り入れた行動経済学が生まれました。

行動経済学では不合理な行動にはいくつかの「くせ」があることを教えてくれます。例えば欧米の人々はコロナ禍をコントロールできていると能動的に捉えてマスクをしない人が大勢いるなどです。この「くせ」を知れば、私たちは日々の生活を改善でき、仕事にも応用できそうです。長い春休み、ダン・アリエリー著「予想通りに不合理」(早川書房)や友野典男著『行動経済学 経済は「感情」で動いている』(光文社新書)などを読んで、自分はどうしてそんな行動をしているのか一度分析してみませんか?

 


 

■Vol.57 2022年1月10日更新

今年は怒らないという目標

お正月はこれまでをオールクリアして新たな気持ちでやり直すきっかけになります。近頃、テレビニュースを見ていても怒っている自分に気づき、今年は怒らない年にしようと考えました。仏教では、人間は「怒り」と「愛情」の二つの感情で生きているといわれています。怒りは自分に満足できないときや、自分の希望がかなわないときに生まれ、「喜び」を失わせ「破壊」の原因になるとされています。このため怒らないことが幸福になるための道と教えています。

昨今は、社会の常識のほうがおかしくなっているのかもしれません。成長を前提にしてきた社会に違和感を持つ人が増えています。成長を支えてきた地球の限界が身近に見えてきたからです。実は、この違和感も怒りに変わります。実際、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんは怒っています。違和感や居心地の悪さが怒りにつながり、怒りが破壊につながるならば、どのようにすればよいか悩みます。

手がかりを求めてアルボムッレ・スマナサーラ、スリランカ上座仏教長老の「怒らないこと」(大和書房)という本を読みました。どうすれば怒らないで済むかについてのコツや、「怒り」を中立的な「問題」として置き換えて解決策を出すことなどが紹介されていました。また、ひろ さちや著『「狂い」のすすめ』(集英社新書)には、世間の常識に縛られずに、人生を仕事ではなく遊びの気持ちで臨めば怒らずに自由に生きられるとありました。九州大学がアンガーマネジメントに取り組んでいることも知りました。

私はこれまで「夢は実現する」と考え、今「自分のやりたいこと」に全力で取り組んでいるか、先送りしていないか問うてきました。そして「夢は将来の自分のためにあるのではなく、今の自分を充実させるためにある」とも言ってきました。しかし昨今は怒ることが増え、今が充実していないことに気づきました。そこで「怒らず、今日は昨日よりましな人間になろう」が今年の目標です。

 


 

■Vol.56 2021年12月23日更新

2022年は半導体覚醒の年

半導体不足で自動車を始めとした多くの製造現場が止まっているというニュースが駆け巡っています。半導体は、導体と絶縁体、両方の性質を持ち何らかの手段を用いて電子の流れをコントロールできるため「オン・オフの切替え」や「一方向に電気を流す」、「増幅」などに使われます。

実際は半導体基板上に微細な回路を実装した半導体チップとして制御機能を持たせて、車や通信機器のほか多くの電化製品に組み込まれ、小型化や省エネに貢献しています。今後、あらゆるモノがインターネットにつながるIoTやAI(人工知能)の時代を迎え、半導体需要が拡大するのは確実です。一方、デジタル産業は地球への負荷が極めて大きく温暖化対策などの取り組みに莫大なコストがかかると予測されており、この観点でも省エネに有利な半導体チップがあらゆる場面で欠かせません。国もこのような未来の産業を左右する半導体が海外依存のままで良いのかとの危機感から世界トップの半導体メーカー(TSMC)の国内立地を支援することを表明しています。

ところで半導体に詳しい東大の黒田忠広教授は「多様化する社会問題を解決し、未来の社会を築くサービスや機器は規格化された出来合いのチップを組み合わせるだけでは作れない。特注で少量生産の専用チップが必要で、その設計にはこれまで半導体チップを使う側にいて社会問題を肌で感じている企業が鍵を握っている」と語っています。実際、半導体のユーザー企業であったトヨタ自動車とデンソーは2020年4月に自動運転などのAIに用いる専用チップを開発する会社ミライズを立ち上げています。

建設現場でもi-Constructionの普及とともに半導体チップが活躍していますし、身近な例では、おばせキャンパスのイルミネーション企画のLEDや太陽光発電でも半導体が使われています。ユーザー側にも求められつつある半導体知識、電気情報系以外の学生でも半導体にアプローチ出来る程度の教育システムが必要と考えています。

注)i-Construction(アイ・コンストラクション)とは、国土交通省が掲げる、測量から設計、施工、検査、維持管理に至る全ての事業プロセスでICTを導入することで建設システム全体の生産性向上を目指す取組みです。

 


 

■Vol.55 2021年12月15日更新

長寿時代に時間を買う?

今年も変異を続けるコロナウイルスに振り回され、あっという間に師走を迎えました。人間は人生100年という長寿を手に入れましたが、目標を持たなければ目の前の課題に振り回されて長寿を無駄にしそうです。

今回は長寿な動物について調べてみることにしました。古来「鶴は千年、亀は万年」と言われていますが、陸上ではやはりカメがナンバーワンで、セーシェルセマルゾウガメに推定160~170歳の個体が現存することを知りました。一方海では北極海にいるニシオンデンザメという大型のサメの寿命が一番で約400年でした。その長寿の理由を探る中で「生物の生きるペースは体温で決まる」(「学鐙VOL.118No.4」渡辺佑基)という小論を見つけました。そこでは (1)恒温動物の方が変温動物より体温が高くエネルギーを多消費すること (2)体温の低い方が心拍数も減り血の巡りが遅く筋肉の動きが鈍くなり生物として機能するスピードが遅いこと、が示されていました。また、地球上で暮らす動物の生きるペースは心拍数にも左右されることをネズミ(毎分600回)とゾウ(毎分20回)の事例で示し、一般的に体温が同じであれば大きな動物の方が成長は遅く寿命が長い傾向にあると記しています。ニシオンデンザメは水温が零度になる北極海に棲み、体長5m、体重1tと巨体で低体温という長寿の条件を併せ持っています。北極海を泳いでいるニシオンデンザメの長老は江戸初期から生きていることになり、彼らからすれば人間の一生などあっという間でしょう。

とは言え人間には知恵があり、目標を叶えるために先人の本を読んだりセミナーに参加したりして時間を買う事が出来ます。今回のコロナ禍でもオンライン授業を導入したことで移動時間の節約を体験するとともにパソコンを買って学ぶ学生を見て利子を支払うことも時間を買う手段だと理解しました。光陰矢の如し、長寿の時代にあっても時間を買うという視点と目標を持つ大切さに気づいた1年でした。

 


 

■Vol.54 2021年12月1日更新

持続可能性を考える

昨今、地球の容量や限界を知り、未来に向かって快適な生活が送れるようにとSDGsの考え方が浸透してきたと感じていますが、人間が活動すると必ずゴミが出ます。寿命を迎えた太陽光発電パネルや蓄電池をどのように処理するのかもカーボンフリーの視点で考えておくことが欠かせません。

11月27日(土)朝日新聞「be」で「宇宙ゴミ掃除人 救え地球を」という見出しを見つけました。地球の周りには人工衛星の残骸などスペースデブリと呼ばれる宇宙ゴミが増え続け、このまま放置すれば宇宙空間を使えなくなるというのです。記事では岡田さんという40代の日本人が「アストロスケール」という会社を設立して宇宙ゴミを掃除するという難題に挑んでいる姿が紹介されていました。宇宙空間利用が持続可能でなければ現状の生活水準の維持は不可能で、SDGsどころではないと締めくくられていました。

同じ紙面に「公共インフラの老朽化、欠かせない健康診断と治療」という記事が掲載されていました。ここではトンネルや水道橋が崩落した事例を取り上げ、高度成長期に数多く整備された日本の公共インフラが寿命を迎えつつあり、点検や修繕が喫緊の課題であると指摘しています。財政難や人手不足の中で、インフラを維持するにはロボットやドローンの活用が鍵になる、日本の技術に期待したいと結んでありました。

今回、日頃は気づかない宇宙ゴミやインフラの老朽化の話から、SDGsの項目にはない持続課題が、いろんな階層で起こっていることを再認識しました。コロナ禍、人手不足で事業の存続が危ぶまれる企業が増えているのもその一つです。人間の脳には都合のいい情報しか見ない確証バイアス(先入観)や自分だけは大丈夫という正常性バイアスがあります。今起こっている事実を見える化して課題に向き合いバイアスを無くすことが持続可能性を高める第一歩です。各国共通の持続課題である宇宙ゴミ、英知を集めてスペースデブリを取り除くアクションが必ず起こると信じています。

 


 

■Vol.53 2021年11月17日更新

eスポーツ!?

本学では「eスポーツを主軸とした教育・科学技術研究によるDX人材育成事業」に取り組むことにしました。きっかけは、分野を超えた若手の先生方と職員からの提案です。高校訪問や授業を通じて「eスポーツ」に興味を持っている若者がとても多く教育に取り入れれば情報に興味を持つ学生の獲得に有利なだけでなく企業が求めるDX人材の育成にも役に立つと聞いたからです。

JESU(日本eスポーツ連合)によると『「eスポーツ」とは「エレクトロニック・スポーツ」の略で、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称』とあります。

「sports」の語源はラテン語の「deportare」で意味は「気分転換」ですが、日本ではスポーツという言葉が「体育」や「運動」と訳されて定着しているため身体活動ではない「eスポーツ」と言われてもピンときません。しかし、世界に目を向けると「eスポーツ」人口は1億人をはるかに超え、今年度はIOCがオリンピック・ヴァーチャル・シリーズを開催するまでになっています。

さて、日本では遅れていた「eスポーツ」ですが通信環境が整備されるとともに若者を中心に爆発的に愛好者が増えていること、また工学やデザインとも相性が良いことから次の二つの観点で取り組むことにしました。一点目は必修の「データサイエンス入門」の延長として学生が興味を持つ「eスポーツ科目」を新設し、対戦結果などの分析を通じてPCスキルの向上やチームビルディング力をつけることを目指します。二点目は「eスポーツ」を使った高齢者の健康寿命延長や認知機能改善、子ども教育イベントなどに学生を参加させてコミュニケーション力や人間力の向上につなげるという視点です。将来的には場所を選ばない「eスポーツ」の特長を活かして、国際競技に参加したり、オンライン留学に繋げたりと国際交流にも活用できると考えています。

 


 

■Vol.52 2021年11月3日更新

Connect to the Future ~未来へつなげ~

表題は先月末に行われた今年の大学祭のテーマです。学部が違っても同じつなぎを着た大学祭実行委員会の学生たちは、大学祭を企画・準備をする中で一生の友人に出会ったり模擬店やイベントの感染対策を通じて実社会の仕組みを体験したりしました。イルミネーション企画では装飾デザインだけでなく近くの病院の入院患者からどう見えるかなどにも気を使い、電源は太陽光発電と蓄電池を組み合わせるなどカーボンフリーにも配慮しているのに感心しました。

日本は現役2人が1人の高齢者を支える人口減少社会にありますが、世界は78億を超える人口の中で競争社会にあります。グローバル化で水平分業が進み日本の製造業は海外に流出、「高品質なものを安く提供して稼ぐ」という日本のビジネスモデルは通用しなくなっています。そしてあらゆる情報がデジタル化されAIが活躍するDX時代を迎え知的労働者も合理化の危機にあります。このような中で地球環境問題やパンデミックに直面し世界中がSDGsに取り組んでいますが大人は未だに「一致団結して経済的な豊かさを実現する」という成長の強迫観念から抜けだせていません。

しかし、高度成長時代を知らないデジタルネイティブの学生たちは「成長とは異なる本当に豊かで幸せを感じられる未来」を信じて大学祭に取り組んでいました。例えば、模擬店で自分が書いたイラストを缶バッジにして売っていた学生が「ローカルにいても世界とつながれる時代、地元で好きなことを仕事にしたい。」と語った言葉が「車椅子や寝たきりの生活を送る障がい者がロボットを操作し自宅から離れたお店で接客するそんなロボットカフェが東京日本橋に開店した。」というテレビニュースと重なりました。

準備や跡片づけの際も笑顔で、すれ違いざまに「こんにちは!」と声をかけてくる学生に触れ、心配せずともテーマ通り「お金では買えないつながりを重視した新たな未来」は来ると実感できた大学祭でした。

大学祭イルミネーション大学祭イルミネーション

 


 

■Vol.51 2021年10月15日更新

ドラフト会議で考える

今回のドラフト会議で、本学工学部総合システム工学科の隅田知一郎(ちひろ)君が4球団から1位指名を受け抽選の結果、埼玉西武ライオンズと入団交渉することになりました。ドラフト当日は彼の出身地である長崎も含めマスコミ27社が本学に集結。西武ライオンズに決定後の記者会見が全国放送されると「西日本工業大学、SNSトレンド入りおめでとう」、「大学がどこにあるかやっとわかった」などの電話やメールを多数いただきました。

「名は体を表す」と言いますが、かつて本学は「九州工科大学」で開学申請したのですが「他大学と混同する恐れがある」と却下され現在の名前になった経緯があります。Wikipediaには「西日本とは、日本を大きく分ける時に使用される語で、日本の西半分を指す。対義語は東日本」とあります。九州では本来の意味のほかに1000年以上「都」があった畿内より西にあるという意味合いやマーケットを意識して西日本という名称が良く使われています。しかし今回、西日本という名前はイメージをつかみにくい言葉であったことを再認識しました。

そのような中で、西日本という地方や名称に関係なく隅田君が見出されたのは野球界のスカウトという人材発掘システムが機能したためと感じました。また地方の小さな大学でも学生が大志を持って努力すれば社会が求める人材育成が出来るという自信を持つ事が出来ました。一般学生の人材発掘システムは各種の発表会やコンテスト、インターンシップでしょう。学生時代に将来何をしたいか考えるという明確な意識を持ってこれらの機会に臨めば、どこかでスカウトの目に留まるはずです。試合で目立つには練習が必要ですが、試合に出れば自分の長所や短所が見えてきてどこを伸ばせば良いかを知ることができます。

仕事の形がジョブ型にシフトしつつある現在、これから大学が力を入れるべきスカウトの視点を考えるきっかけを作ってくれた隅田君にエールを送ります。

 


 

■Vol.50 2021年9月30日更新

就職で問われるコミュニケーション力

コロナ禍、2年目の就職戦線も終盤を迎えていますが、ポストコロナ時代の不透明感から採用数を控えている企業が多く、例年より苦戦しています。就職担当からは「コミュニケーションが苦手な学生が残っています」と報告を受けています。かつては寡黙で会社の方針に従って黙々と働く人材を採用していた企業が今はコミュニケーション力を第一に掲げています。

モノが行きわたって、多様な要望に応えなければ売れないマーケットインの時代になったことが原因の一つと考えられます。

かつては「あのテレビ見た?」で話が弾んだのに、今はユーチューブのニッチなコンテンツが話題になって、何がいいのか、自分の言葉で伝えないと話が通じない時代になって来ました。また、技術革新や価値観の変化が速い時代を迎え、売れる商品を見出だすには消費者の隠れた声を探し出し、多くの部署が協力してスピード感を持って開発することが重要になっています。そこで、どの業態も情報共有をスムーズに行えるコミュニケーション力がある人材を求めるようになりました。

しかし、今の学生は「一人一人に個性がある、自分らしく生きることを大切に、自分のやりたいことをやりなさい」と小学校時代から言われ、コミュニケーションの重要性を教えてくれる先生はいませんでした。就職に際し、にわかに面接の練習をしてもうまくコミュニケーションが取れない学生が多いのです。

私は経験上、実務に求められるコミュニケーション力は、質問の内容を正しく理解し「私はこう考えます。その理由はこうで、こういう経験をしたからです」などと答えられれば十分と考えています。

本学ではコミュニケーションが苦手な学生には、就職指導時に限らず日頃から、学生が持っている良い点を見極める緊密な対話の場を持っています。学生はその対話経験を通じて怖がらずに話す会話力を身につけ、自分の長所を活かせる企業との出会いにつなげています。

 


 

■Vol.49 2021年9月16日更新

情報化時代のアップデート

9月14日(火)「個人情報と情報セキュリティ」について教職員研修を行いました。昨今、個人情報の取り扱いが厳しくなっています。個人情報とは「生存する個人に関する情報で、特定の個人を識別できるもの」です。大学にも学生の成績など個人情報が多くデータ化されています。かつては卒業生名簿に住所などの個人情報が載っていることに疑問を抱かない時代がありましたが、勧誘電話やストーカー、偽署名などいろいろな事件が発生するようになり、名簿作成をやめる大学も増えています。

一方、個人情報がデジタル化されたことで小さな会社でも10万人単位の顧客情報を扱えるようになっています。コロナ禍、テレビでは個人を特定できないようにして駅前の人出を調べた数字が毎日報告されています。個人情報も使い方によってはいろいろな場面で有効に使えるため、情報の保護と活用のバランスが重要になっているのです。

また、情報セキュリティの面では海外のハッカーがインターネットを通じて、対策をとっていないパソコンやスマホにウィルスを侵入させ、データを消去したり、情報を盗んだりするだけでなく乗っ取って事件の当事者にしてしまう事例も多発しています。情報発信者側でもSNSでつぶやいた内容が炎上したり内容がいつまでも残ったりする問題が起こっています。

大学では情報リテラシーを必須にしていますが、担当教員に任せてしまう傾向があります。例えば、オンライン授業に使っているTeamsは使い方がたびたび変更されついていくのに精一杯です。学生がまじめに聴講しているかどうか確認が必要ですが、画像をオンにすると顔や部屋の中が映り込み、個人情報が流出する恐れがあります。

デジタル時代を迎え情報に関する世論は日々変化し情報技術は日々進化しています。そこで、教職員の皆さんに「日々アップデートすることが重要ですよ」というメッセージを送る意味で折に触れて情報研修に取り組んでいます。

 


 

■Vol.48 2021年8月30日更新

コロナ禍の散歩中に気づく

おばせキャンパス近くの小高い丘にある大熊公園を散歩するのが昼休みの日課です。東は瀬戸内海、西は高城山、北に小倉南区の山、南には行橋の街並みを臨めます。樹木の香りや野鳥の姿に季節の移り変わりを感じる公園です。渡り鳥が少ない夏場は雀の独壇場ですがセミの鳴き声の変化などを感じながら園路を3周歩きます。このウォーキングが思いがけない気づきと創造を生むのです。

土日は自宅近くの関門海峡を一望出来る大里海岸緑地です。日々表情が変化する海の色や吹き抜ける風に季節を感じます。波間のきらめきや関門海峡を行き交う大小さまざまな船を見ていると日常を忘れてリフレッシュできます。

ところが、長引くコロナ禍の昨今、歩いているとこれからどんな社会が来るのだろう?という思いに駆られるのです。コロナ禍が落ち着きさえすれば元の社会に戻るからと日本中が我慢と思考停止に陥っているのではと心配になって来たのです。コロナ禍でもオリンピックやパラリンピックは開催され、アフガニスタン情勢は日々変化しています。また自動車のEV化など化石燃料を使わない社会への転換や量子コンピュータの開発も着々と進んでいます。海側に続く自動車工場が見える園路を歩いていると、停滞している日本経済の下で半導体不足が叫ばれる疑問が、デジタル化の加速の「証」と気づきました。

また、本社移転やワーケーションなど分散型の仕事が叫ばれる中で、街中の人手が減らないことが話題になっています。散歩中、ポストコロナの賑わい拠点はどうなるのだろう?賑わいと自然の豊かさとは反比例するけれど、デジタルなどの先端技術で融合できるかなと考えていました。戻って検索してみると点在する商業リゾート三重「VISON」と人口減6町で挑む「スーパーシティ構想」の記事を見つけました。決定的な考え方の転換をしないと見えない「もやもやした疑問」は意外にも歩いている途中にくっきりしてくるのです。

 


 

■Vol.47 2021年8月15日更新

「大志」を持って不確実な時代を生き抜く

「少年よ大志を抱け」は1877年(明治10年)クラーク博士が札幌農学校を去る際に語った言葉です。明治維新で激動する時代に日本の新たな国造りを目指す若者に向けた言葉です。私は「大志」とはどのような状況でも変わらない基本的価値観と目標とを合わせもった「生きがい」ではないかと考えています。

「大志」のイメージをつかんでもらうための例え話です。ピラミッドを作る石を運んでいた人に「君は今、何をしているのだ」と尋ねたところ一人は「見ればわかるだろ石を運んでいる」と答え、もう一人は「王様の墓を作っている」と自慢げに言い、別の一人は「歴史に残る事業をしている」と胸を張りました。同じように石を運んでいても意識が全く違うのです。同様に河川の護岸工事を担当する職員に何をしているのか聞くと一人は「コンクリートで護岸を作っている」と言い、一人は「氾濫して水害が起こらないよう工夫している」と答えました。三人目は「地域防災システムの一部を作っている」と説明しました。三番目の人は下水道のポンプ場に異動しても森林管理を担当するようになっても同じ答えができます。大きな目標(大志)があれば、どの仕事に取り組んでも生きがいに結びつけられ達成感を感じることができます。

クラーク博士の名言から150年近くを経た現代、西欧にも追いつき、モノからコトへ時代が大きく変わりつつあります。また、少子高齢化や気候変動など過去にはなかった課題が山積し、共働きなど働く環境も変化しています。その上、経験したこともなかった自然災害やパンデミックに見舞われています。

このように明治維新にも劣らない不確実な未来を生きる今の若者に「少年よ大志を抱け」と改めてエールを送りたいと思います。「大志」はつくりあげるのでも与えられるもでもなく自分で見つけるものです。私は「北九州市を魅力的な街にしたい」という生きがいから何度も達成感をもらいました。

 


 

■Vol.46 2021年7月28日更新

数学者と物理学者の本で知る国語

コロナ禍でも、照りつける太陽に百日紅の花が例年通り咲いています。1年遅れのオリンピックも始まり、間もなく夏休みです。今回は夏休みに読んでほしい本の紹介です。

まず、数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞受賞者の広中平祐(1931生)著の「学問の発見」(講談社ブルーバックス)です。山口県の田舎育ちの彼が数学者として大成するまでの半生記です。副題に「生きること学ぶこと」とあります。なぜ学ぶのか、大学で何をどのように学べばよいかについて彼の思いが伝わって来ます。次に物理学者、大栗博司(1962生)著「探究する精神」(幻冬舎新書)です。小難しい「超弦理論」の話が多く出てきますがそこを理解できなくとも、夢を追って学ぶ、迷ったら困難な道を選ぶことがチャレンジの原動力になることを気づかせてくれます。また数式がモノを言う物理分野でも幅広い教養が欠かせないことを力説しています。二人の文章は数学や物理が苦手でもエッセンスがすんなり頭に入ってきて読後は自分でも何かやれそうという気持ちになります。自分の頭で考え、伝えたいことがクリアーに整理されているからです。

分かりやすい文章の秘密を知るのに最適なのが数学者、藤原正彦(1943生)著「祖国とは国語」(新潮文庫)です。自分がこれからどのように生きていこうかと考えるのに役立つ30篇ほどのエッセイ集で、考える際の視点や切り口のヒントが満載です。彼の言葉に「母国語の語彙(ごい)は思考であり情緒なのである」とあります。

最後に岡潔(1901生)著「春宵(しゅんしょう)十話」(新潮文庫)です。自分を突き動かしている心、情緒について熱心に語ります。また、百年前の日本人はどのような考えで行動していたのか、日本人として守り続けるべき文化とは何かを考えさせられる本です。世代が異なる4人ですが皆留学経験があり、グローバル時代こそ国語を学び国語で考えることが重要というメッセージが伝わってきます。

 


 

■Vol.45 2021年7月15日更新

境界を超える

今年度は野球部、弓道部、バトミントン部、卓球部が相次いで全国大会に出場しました。それぞれの部が厳しいトレーニングを積んでブロック予選を突破して手にした出場です。改めて全国大会に出場した皆さんの努力に敬意を表したいと思います。ところで予選を突破したことは全国大会への境界を超えたとも言えます。国境を思い浮かべると分かりやすいのですが境界を超えるとそこは全くの別世界が広がっています。

自然界にも例えば水が氷や水蒸気に変化する相転移があり大気圧では温度が境界になっています。勿論、転移には凝固熱や気化熱というエネルギーが必要です。また、地球の大気圏と宇宙との間にも境界があり、地球の重力圏を脱出できないと宇宙には出られません。生物と無生物の間にも自己複製を行うシステムであるかどうかなどが境界になっています。

さて、境界には越えてはいけないものと越えざるを得ない境界があります。前者の例として2009年に発表された地球の境界(プラネタリー・バウンダリー)があります。「その境界内であれば人類は将来に向けて発展と繁栄を続けられるが、境界を越えると、急激なあるいは取り返しのつかない環境変化が生じる可能性がある」というもので、人類が増えすぎて地球の限界を超え始めたことを明確に示しSDGsの目標設定に大きな影響を与えました。後者の身近な例としては、すり合わせなどのアナログ技術でモノが価値を生み出してきた社会から情報が価値を生むデジタル社会へ移行する変化の中で急変する境界があります。

今回のコロナ禍で日本でもデジタル化が加速されビッグデータやAIが社会を動かす時代への急変点が見えてきました。境界を超えた世界は正解がない社会です。予選である大学時代にサーチライトとなるデータサイエンスやデザイン思考を学び「問」を立てて自分なりの答えを出す複眼思考を身に付けることが本戦へのトレーニングになります。全力で応援したいと考えています。

 


 

[関連情報]