学長の部屋|ブログ|― 情報化時代のアップデート

投稿者:西日本工業大学 第11代学長 片山憲一


 

■Vol.49 2021年9月16日更新

情報化時代のアップデート

9月14日(火)「個人情報と情報セキュリティ」について教職員研修を行いました。昨今、個人情報の取り扱いが厳しくなっています。個人情報とは「生存する個人に関する情報で、特定の個人を識別できるもの」です。大学にも学生の成績など個人情報が多くデータ化されています。かつては卒業生名簿に住所などの個人情報が載っていることに疑問を抱かない時代がありましたが、勧誘電話やストーカー、偽署名などいろいろな事件が発生するようになり、名簿作成をやめる大学も増えています。

一方、個人情報がデジタル化されたことで小さな会社でも10万人単位の顧客情報を扱えるようになっています。コロナ禍、テレビでは個人を特定できないようにして駅前の人出を調べた数字が毎日報告されています。個人情報も使い方によってはいろいろな場面で有効に使えるため、情報の保護と活用のバランスが重要になっているのです。

また、情報セキュリティの面では海外のハッカーがインターネットを通じて、対策をとっていないパソコンやスマホにウィルスを侵入させ、データを消去したり、情報を盗んだりするだけでなく乗っ取って事件の当事者にしてしまう事例も多発しています。情報発信者側でもSNSでつぶやいた内容が炎上したり内容がいつまでも残ったりする問題が起こっています。

大学では情報リテラシーを必須にしていますが、担当教員に任せてしまう傾向があります。例えば、オンライン授業に使っているTeamsは使い方がたびたび変更されついていくのに精一杯です。学生がまじめに聴講しているかどうか確認が必要ですが、画像をオンにすると顔や部屋の中が映り込み、個人情報が流出する恐れがあります。

デジタル時代を迎え情報に関する世論は日々変化し情報技術は日々進化しています。そこで、教職員の皆さんに「日々アップデートすることが重要ですよ」というメッセージを送る意味で折に触れて情報研修に取り組んでいます。

 


 

■Vol.48 2021年8月30日更新

コロナ禍の散歩中に気づく

おばせキャンパス近くの小高い丘にある大熊公園を散歩するのが昼休みの日課です。東は瀬戸内海、西は高城山、北に小倉南区の山、南には行橋の街並みを臨めます。樹木の香りや野鳥の姿に季節の移り変わりを感じる公園です。渡り鳥が少ない夏場は雀の独壇場ですがセミの鳴き声の変化などを感じながら園路を3周歩きます。このウォーキングが思いがけない気づきと創造を生むのです。

土日は自宅近くの関門海峡を一望出来る大里海岸緑地です。日々表情が変化する海の色や吹き抜ける風に季節を感じます。波間のきらめきや関門海峡を行き交う大小さまざまな船を見ていると日常を忘れてリフレッシュできます。

ところが、長引くコロナ禍の昨今、歩いているとこれからどんな社会が来るのだろう?という思いに駆られるのです。コロナ禍が落ち着きさえすれば元の社会に戻るからと日本中が我慢と思考停止に陥っているのではと心配になって来たのです。コロナ禍でもオリンピックやパラリンピックは開催され、アフガニスタン情勢は日々変化しています。また自動車のEV化など化石燃料を使わない社会への転換や量子コンピュータの開発も着々と進んでいます。海側に続く自動車工場が見える園路を歩いていると、停滞している日本経済の下で半導体不足が叫ばれる疑問が、デジタル化の加速の「証」と気づきました。

また、本社移転やワーケーションなど分散型の仕事が叫ばれる中で、街中の人手が減らないことが話題になっています。散歩中、ポストコロナの賑わい拠点はどうなるのだろう?賑わいと自然の豊かさとは反比例するけれど、デジタルなどの先端技術で融合できるかなと考えていました。戻って検索してみると点在する商業リゾート三重「VISON」と人口減6町で挑む「スーパーシティ構想」の記事を見つけました。決定的な考え方の転換をしないと見えない「もやもやした疑問」は意外にも歩いている途中にくっきりしてくるのです。

 


 

■Vol.47 2021年8月15日更新

「大志」を持って不確実な時代を生き抜く

「少年よ大志を抱け」は1877年(明治10年)クラーク博士が札幌農学校を去る際に語った言葉です。明治維新で激動する時代に日本の新たな国造りを目指す若者に向けた言葉です。私は「大志」とはどのような状況でも変わらない基本的価値観と目標とを合わせもった「生きがい」ではないかと考えています。

「大志」のイメージをつかんでもらうための例え話です。ピラミッドを作る石を運んでいた人に「君は今、何をしているのだ」と尋ねたところ一人は「見ればわかるだろ石を運んでいる」と答え、もう一人は「王様の墓を作っている」と自慢げに言い、別の一人は「歴史に残る事業をしている」と胸を張りました。同じように石を運んでいても意識が全く違うのです。同様に河川の護岸工事を担当する職員に何をしているのか聞くと一人は「コンクリートで護岸を作っている」と言い、一人は「氾濫して水害が起こらないよう工夫している」と答えました。三人目は「地域防災システムの一部を作っている」と説明しました。三番目の人は下水道のポンプ場に異動しても森林管理を担当するようになっても同じ答えができます。大きな目標(大志)があれば、どの仕事に取り組んでも生きがいに結びつけられ達成感を感じることができます。

クラーク博士の名言から150年近くを経た現代、西欧にも追いつき、モノからコトへ時代が大きく変わりつつあります。また、少子高齢化や気候変動など過去にはなかった課題が山積し、共働きなど働く環境も変化しています。その上、経験したこともなかった自然災害やパンデミックに見舞われています。

このように明治維新にも劣らない不確実な未来を生きる今の若者に「少年よ大志を抱け」と改めてエールを送りたいと思います。「大志」はつくりあげるのでも与えられるもでもなく自分で見つけるものです。私は「北九州市を魅力的な街にしたい」という生きがいから何度も達成感をもらいました。

 


 

■Vol.46 2021年7月28日更新

数学者と物理学者の本で知る国語

コロナ禍でも、照りつける太陽に百日紅の花が例年通り咲いています。1年遅れのオリンピックも始まり、間もなく夏休みです。今回は夏休みに読んでほしい本の紹介です。

まず、数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞受賞者の広中平祐(1931生)著の「学問の発見」(講談社ブルーバックス)です。山口県の田舎育ちの彼が数学者として大成するまでの半生記です。副題に「生きること学ぶこと」とあります。なぜ学ぶのか、大学で何をどのように学べばよいかについて彼の思いが伝わって来ます。次に物理学者、大栗博司(1962生)著「探究する精神」(幻冬舎新書)です。小難しい「超弦理論」の話が多く出てきますがそこを理解できなくとも、夢を追って学ぶ、迷ったら困難な道を選ぶことがチャレンジの原動力になることを気づかせてくれます。また数式がモノを言う物理分野でも幅広い教養が欠かせないことを力説しています。二人の文章は数学や物理が苦手でもエッセンスがすんなり頭に入ってきて読後は自分でも何かやれそうという気持ちになります。自分の頭で考え、伝えたいことがクリアーに整理されているからです。

分かりやすい文章の秘密を知るのに最適なのが数学者、藤原正彦(1943生)著「祖国とは国語」(新潮文庫)です。自分がこれからどのように生きていこうかと考えるのに役立つ30篇ほどのエッセイ集で、考える際の視点や切り口のヒントが満載です。彼の言葉に「母国語の語彙(ごい)は思考であり情緒なのである」とあります。

最後に岡潔(1901生)著「春宵(しゅんしょう)十話」(新潮文庫)です。自分を突き動かしている心、情緒について熱心に語ります。また、百年前の日本人はどのような考えで行動していたのか、日本人として守り続けるべき文化とは何かを考えさせられる本です。世代が異なる4人ですが皆留学経験があり、グローバル時代こそ国語を学び国語で考えることが重要というメッセージが伝わってきます。

 


 

■Vol.45 2021年7月15日更新

境界を超える

今年度は野球部、弓道部、バトミントン部、卓球部が相次いで全国大会に出場しました。それぞれの部が厳しいトレーニングを積んでブロック予選を突破して手にした出場です。改めて全国大会に出場した皆さんの努力に敬意を表したいと思います。ところで予選を突破したことは全国大会への境界を超えたとも言えます。国境を思い浮かべると分かりやすいのですが境界を超えるとそこは全くの別世界が広がっています。

自然界にも例えば水が氷や水蒸気に変化する相転移があり大気圧では温度が境界になっています。勿論、転移には凝固熱や気化熱というエネルギーが必要です。また、地球の大気圏と宇宙との間にも境界があり、地球の重力圏を脱出できないと宇宙には出られません。生物と無生物の間にも自己複製を行うシステムであるかどうかなどが境界になっています。

さて、境界には越えてはいけないものと越えざるを得ない境界があります。前者の例として2009年に発表された地球の境界(プラネタリー・バウンダリー)があります。「その境界内であれば人類は将来に向けて発展と繁栄を続けられるが、境界を越えると、急激なあるいは取り返しのつかない環境変化が生じる可能性がある」というもので、人類が増えすぎて地球の限界を超え始めたことを明確に示しSDGsの目標設定に大きな影響を与えました。後者の身近な例としては、すり合わせなどのアナログ技術でモノが価値を生み出してきた社会から情報が価値を生むデジタル社会へ移行する変化の中で急変する境界があります。

今回のコロナ禍で日本でもデジタル化が加速されビッグデータやAIが社会を動かす時代への急変点が見えてきました。境界を超えた世界は正解がない社会です。予選である大学時代にサーチライトとなるデータサイエンスやデザイン思考を学び「問」を立てて自分なりの答えを出す複眼思考を身に付けることが本戦へのトレーニングになります。全力で応援したいと考えています。

 


 

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