学長の部屋|ブログ|― デジタルデバイド

投稿者:西日本工業大学 第11代学長 片山憲一


 

■Vol.75 2022年9月17日更新

デジタルデバイド

デジタルデバイドとはインターネットやデジタル機器を使える人と使えない人との間に生じる情報格差のことです。インターネットなどのIT環境やデジタル機器の性能、それらを使いこなすITスキルの差によって得られる情報に大きな格差が生まれます。先進国か途上国か、都会か田舎か、経済的に裕福か、また学歴や年齢などによってアクセスできる情報量が全く違うのです。まずは至る所にデジタルデバイドによる弱者がいると気づくことが重要です。

今の学生は生まれた時からインターネットがあり、物心ついた時にはスマートフォンが身近にあった世代でデジタルネイティブと言われています。特に、本学の情報系の学生たちが最先端のデジタルツールを使いこなす姿は異星人のようです。そこでこれまで大学ではスマホ脳やAIにも潜在機能があることなどITを使う際に留意することを中心に指導・注意してきました。

ところが現実は高齢者世帯にはインターネット環境が無いことが多く情報はテレビや新聞が頼りです。ロシアではインターネットを使わない高齢者ほどウクライナ侵攻の支持率が高いと伝えられています。また逆に、スマホが便利になりすぎてパソコンを使えない若者が増えていることがデジタル革命を遅らせている面もあります。IT機器を使いこなせる環境やスキルによって知らないうちに情報格差が生まれているのです。

実感としてITリテラシーを向上させる一番の方法は良くわかる人がそばにいることです。本学の情報系の学生のような人材が情報弱者に寄り添える環境をつくることです。このようなことからもIT人材の育成が急務なのです。同時にIT分野にもユニバーサルデザインの視点が必要と考えます。例えば、話しかければ動作するAIアシスタント機能と高齢者の身近にあるテレビとをつなぐ技術などにヒントがあるような気がしています。デジタルデバイドを小さくする取り組みがデジタル革命の近道になると思っています。

 


 

■Vol.74 2022年8月31日更新

食料問題に目を向ける

アメリカ有数のトマト生産地のカリフォルニアは熱波による被害を大きく受け1200万トンの収穫予想に対し約10%少ない1070万トンの収穫しかなくトマトソースやトマトピューレの加工業者が窮地に陥っているという記事がナショナルジオグラフィックに掲載されていました。また、ロシアのウクライナ侵攻で両国からの小麦の輸出が減少し中近東やアフリカで食糧危機に陥っている国があるとのニュースを目にします。日本でも世界の食糧需給バランスが崩れる中で円安が進み商社が食料を買い負けるようになっています。

農林水産省の発表ではカロリーベースの日本の食料自給率は1965年には73%あったものが2021年は38%に減少しています。一方、日本人の一人当たりの食料廃棄量は世界一で、年間消費量の2割に当たる約1800万トンが廃棄されている現実があります。現在約80億人の世界人口は2050年には97億人になると予想されており、世界食糧機関FAOの予測では2013年の倍の食料生産が必要で、このままでは近い将来、食料危機に陥る可能性があります。

この点について少し調べてみると、昨今、世界規模で中間層が増え一人当たりの肉や魚の消費量が増大する一方、畜産や養殖は生産物の何倍もの穀物や魚粉によって賄われているため2030年にはタンパク質の供給が需要に追いつかなくなると推測されていました。人間の身体は約60%が水分で15~20%がタンパク質でできており、たんぱく質の確保は必須で、解決策として大豆ミートなどの代替肉や食料や飼料としての昆虫が注目されていることも分かりました。

本学ではこれまで鳥獣被害防止柵やトマト収穫ロボット、ドローンによる農地管理など喫緊の課題解決に取り組んで来ました。今後は自給率アップに着目した食料の地域循環型デザインの構築やAIを活用して生産性を向上させる農業技術、フードロスを減らすシステムづくりなどが必要と考えています。工学とデザインを融合して食糧自給率を向上させるフードテックに目を向けませんか。

 


 

■Vol.73 2022年8月22日更新

新しい地方を創る視点

「2022年1月1日現在の日本の人口は1憶2322万人で昨年より約62万人少なく13年連続で減少、沖縄を除く46都道府県で人口が減少した」との報道がありました。コロナ禍で東京都も26年ぶりに減少!と話題になりましたが社会増は続いています。8年前の「地方消滅」(増田寛也著、中公新書)で指摘された東京一局集中による地方の衰退は相変わらずです。進学時や就職時に地方の若者が首都圏に転出し故郷に戻らない状況が続いています。東京は仕事の選択肢が多いだけではなく賑わいや流行へのアクセスが容易で若者を引き付け続けています。

しかし今回のコロナ禍は地方にいても学びや仕事がオンラインで可能なことを気づかせてくれました。パソナグループ本部の淡路島移転などの事例も出て、オンラインの有効性の気づきはこれまで労働人口の減少や労働生産性の観点で進められてきた終身雇用の転換を加速させ、地方の可能性を大きく広げると感じました。またIT技術の進展で地方にいながら世界市場にプロモーションを仕掛けられる環境が整ったことも地方の魅力を活かすチャンスです。

そこで皆さんに、ライフステージのどこかで地方の未来を創るために仕事をするという視点を持って欲しいのです。世界を席巻していた日本の液晶生産の衰退を見ても分かるようにビジネスサイクルが短命化し、大企業に就職しても安心できない時代になりました。政府も働き方改革の名の下、副業や転職を推奨しています。これからは東京か地方か、大企業か中小企業かではなく、両方で学び、働き、居住することが可能な時代なのです。

地方に必要なのはDXやカーボンフリーなどの革新技術や地方の魅力を世界に発信できるデザイン力を持った人材です。そして、地域特性という足かせを外せるのは若者です。故郷から世界の貧困を救うと決め、東京から福岡に拠点を移したボーダレスジャパンの田口社長のように、いつかは新しい地方づくりに関わる視点を持ってこれからの人生を考えてみませんか。

 


 

■Vol.72 2022年8月8日更新

工学部の新入女子学生に聞きました

本学の工学部は女性に人気薄の分野が多く近くにコンビニもない郊外立地のためか女子学生は少ない状況です。しかし多様性を高めることは優秀な学生確保や新しい発想で未来に通用する大学づくりに必須と考え、リケジョ獲得プロジェクトを立ち上げて検討を進めてきました。昨年、若い女性教員が加わっただけでキャンパスの雰囲気が少し変わったと感じたことから、今春、工学部に入学した女子学生13人と意見交換する場を持ちました。

まず、工学部に入学した理由を尋ねると、半数以上の人が中学までにモノづくりに興味を持ったからと答えました。また、数学教員の免許が取れる、1級土木施工管理技士になれる、プログラミングを学べるなど手に職をつける事が出来るからという回答が多くありました。次に入学後の工学部の印象を聞くと、どこも男子学生が椅子を独占している、学食のメニューは揚げ物が多く大盛り、野菜を食べられないなどの意見が出ました。また、授業中にトイレに行っていいですかなど言いづらい雰囲気があり、キャンパス全体が男子学生のペースで居場所が無いという共通認識がありました。

最後に改善して欲しい点を問うと、女子学生が長時間過ごせる環境を作って欲しいがトップでした。また、教室の椅子が固く90分間集中できないとか手洗い場の水温が高すぎる、トイレにナプキンの自販機を置いて欲しいなど今まで考えもしなかった要望が数多く出てきました。

意見交換後に感じたことは、女性の目線に気づいて意識改革すれば解決できる課題が多いということです。例えば、中学までに進学先を決めたという情報からは小中学生に向けて工学の魅力発信を増やせば良いし、硬い椅子対策は長く座っていても疲れないクッションを探せば済みます。彼女たちの声を一つ一つ解決しSNSに「居心地が良い大学」とアップできる環境をつくることが先決だと感じました。そして男子学生も含めて多様な思いに気づいて受け止め改善を続ける工学部を目指したいと思いました。

 


 

■Vol.71 2022年7月28日更新

「百聞は一見に如かず」からユーチューバーの時代へ

アメリカ国立訓練研究所が学習方法と平均学習定着率の関係を示したラーニングピラミッドという学習モデルを出しています。これによると予習・復習などをせず単に講義を受けただけでは5%の定着率しかなく殆ど忘れてしまうとされています。積極的に本を読んでも10%程度しか記憶に残りません。しかし動画視聴では20%、実演を見たり工場見学をしたりすると30%が記憶として定着することが示されています。視覚に加えて聴覚や触覚などにも訴えかけると学びの定着率が高いことが分かります。実際、初めての赤ちゃんの時に育児書を読んで良く分からないところも動画を見れば理解できたとか、二人目は自然に手が動いてあまり困らなかったと良く聞きます。

ところで、日本がモノづくり大国として輝いていた時代は、決められた枠組みの中でいかに早く正確な作業ができるかが重要でノウハウなどの知識を「百聞は一見に如かず」で学んだ時代でした。しかし、昨今は正解がない時代になり自ら考え答えを見つける能力として、思考力、発想力、コミュニケーション能力、学習能力などがとても重要視されるようになりました。

これらの能力は、ラーニングピラミッドでアクティブラーニングと呼ばれるグループ討論(定着率50%)や自ら体験する(定着率75%)、他の人に教える(定着率90%)などの能動的学習を行うことで身に付くと言われています。

このため昨今は大学でもアクティブラーニングを積極的に授業に取り入れるように工夫していますが授業時間は限られています。そこで、自ら問いを立てて探究する際は折に触れて友達やサークル仲間と一緒に議論や体験の場、教えあう場を作ることを提案します。そうして学んだ成果を動画にしてユーチューブなどで人に教えることに挑戦してください。未来を拓く能力をつけながら大学での学習定着率を10倍以上アップできること請け合いです。

ラーニングピラミッド参考図(引用)

 


 

■Vol.70 2022年7月14日更新

物流を題材に探究を体験する

グローバル化の時代は世界で最も安くできる地域で生産し、それらを輸入したり加工したりして消費して来ました。また回転ずしのサーモンのように食べたいものは地球の裏側からでも空輸しています。このため物流はコストと捉えられていました。しかし、ジャストインタイムを確立したトヨタ自動車でさえ、頻発する自然災害やコロナ禍で物流が滞り、半導体などの部品が必要な時に届かず工場が止まる事態に直面しています。加えて、持続可能性の観点からカーボンフリーが優先されたり、米中の対立で輸入制限品が増えたりすることから高くついても戦略的に自国生産に切り替えるケースも出てきました。そのような中、ロシアのウクライナ侵攻で黒海が封鎖され、ウクライナ産の小麦が輸送できずアフリカなどで食糧問題が深刻化したり、経済制裁を課すドイツへの報復として天然ガスのパイプラインを止めたりする事態が発生しました。

このような現実から「食料やエネルギー自給率が低い日本は、物流が止まったらどうするのか?」という問いと課題が見つかるはずです。

課題が明らかになると次はどのような対策を取るべきかを考える探究の段階に入ります。実社会の中で自分とのかかわりが深い視点や興味ある分野の情報を集め、整理・分析して自分の考えを表現できるようにするのが探究です。例えば東日本大震災で寸断された道路に代わってJR貨物が活躍した事例などから必要な物資の調達先やルート、交通手段を複数確保する視点でアプローチする人がいます。また、自然エネルギーの比率を上げて化石燃料を減らすなど輸入量を減らしてリスクを軽減する視点に注目する人もいるでしょう。自給率を上げるという視点で年間612万t以上ある食品ロスを無くすことやマグロの養殖に着目する人がいるかもしれません。

国の生命線である物流を題材に興味ある視点で探究してみませんか?大学ではこの探究学習を通じて課題解決や新たな価値の創造を学びます。

 


 

■Vol.69 2022年6月29日更新

社会問題を解決する「ソーシャルビジネス」

これまでの経済は成長を前提に投資してリターンがある事業にお金が集まっていました。このため貧困や教育、健康、環境と言った収益が上がらない社会問題は行政やNPOが担って来ました。しかし、グローバル化などで複雑化した社会問題は既存の行政では対応が困難で、寄付金頼みのNPOは継続性に問題があり多くの社会問題が取り残されたままになっています。ところが昨今は企業でもSDGsが当たり前になるなど風向きが変わって来ました。

今、ソーシャルビジネスが注目を集めています。一般的なビジネスの目的が「利益の追求」なのに対しソーシャルビジネスは「あらゆる社会問題の解決」が目標で、利益は投資者に分配せずに新たな社会的価値を生み出すために使います。一例として㈱ボーダレス・ジャパンという福岡にも本拠がある会社を紹介しましょう。ここでは若い人たちが多くのソーシャルビジネスを社内に立ち上げ、起業家として社会問題の解決にあたっています。

例えばグループ企業のジョッゴ株式会社はバングラデシュの貧困解決に、それまで現地では捨てられていた食用牛の皮に着目、牛皮を原料にした皮革関連事業を立ち上げました。貧困の中にある現地の人々を積極的に採用、革職人としての技術を身に付けさせ「誇り」を持って働ける環境を整備しました。私が注目したのはデザインの力を駆使して世界で通用する皮革ビジネスに育て上げた点です。デザインの基本である「人間にとって快適か」を追求して色や形、品質を高めると同時に製品になるまでの「物語」を情報としてデザインし世界に発信、多くの現地雇用を生み出し貧困対策に貢献しています。

昨今の学生は社会貢献志向が強く、就職先選びにも地球にやさしい企業かどうかを気にするようになっています。新たな発想には若者の力が不可欠です。本学ではSDGsの取組みや地域課題解決の学びから問題意識を持って社会問題をビジネスで解決する社会起業家の誕生を期待しています。

 


 

■Vol.68 2022年6月14日更新

工学で「問いを立てる」

豊かさの源泉であった「成長」の前に地球の限界という壁が立ちふさがり、インターネットの普及や日進月歩の技術革新も相まって、勝ち組が一夜で負け組になるなど正解が無い時代になっています。このような予測困難な時代には、自ら問いを立てて新たな課題や独自の解を見出だす能力が重要になっています。

この「問いを立てる」とはどういうことかを理解する絶好の書を見つけました。播田安弘著「日本史サイエンス」(ブルーバックス)です。著者は歴史の専門家ではなく造船一筋のエンジニアです。この本には3つのエピソードがありますが、最初の「蒙古軍はなぜ一夜で撤退したのか」という話から筆者が得意とする造船技術を活かして仮説を立てて必要なデータを自ら揃えて検証し、筆者が納得できる解を得るプロセスが語られていきます。

蒙古軍は1274年の10月20日(旧暦)の朝、約900隻の軍船と約3万の兵力で博多湾に押し寄せたのですが、そもそも900隻の船を半年で作るのに木材をどのように調達したのかという問いをたてます。まず、流れの速い対馬海峡を渡海した船の大きさや形を仮定し必要とする材木量から森林面積を推理します。次に半年で900隻を作り上げるには毎日6万人の労力が必要なことを割り出し、マンパワーの観点からもこの数字は不可能と結論付けます。また、博多湾における船団の停泊地や上陸地はどこかなどについても得意とする船の技術から問いを立て科学的データをもとに検証します。

こうして、蒙古軍の上陸地は百道浜で、小舟での上陸に手間取り兵力の逐次投入となった。そこで日本騎馬軍団の奇襲を受けて想定外の被害を被ったため大宰府攻略を断念した。天候急変を警戒して撤退を始めたが、その夜の強い北風で遭難したという結論を得ます。

続編の「日本史サイエンス弐」も出ていますので、興味あるエピソードを見つけてください。どの項目を読んでも「問いを立てる」意味と自分なりの答えを出すプロセスを理解できると思います。

 


 

■Vol.67 2022年5月31日更新

電子顕微鏡で知る世界

人間の目で微小な2点を見分けることのできる最小の距離(分解能)は髪の毛の太さの0.1~0.2mmと言われています。これより細いものは顕微鏡などを使って調べます。中学時代に顕微鏡でミジンコなどを観察した記憶があると思います。この顕微鏡は光学顕微鏡と言って対物レンズと接眼レンズを使って試料の拡大像を見る仕組みで、可視光線の波長(400~800nm)や肉眼の分解能から0.2ミクロンの大きさが限界と言われています。最近テレビでよく見る新型コロナウィルス(約0.1ミクロン)は電子顕微鏡で捉えた映像です。

電子顕微鏡は可視光線よりはるかに波長が短い電子線を使うため0.2ナノメートルまで見分けることが可能です。おばせキャンパスには走査型と呼ばれる電子顕微鏡があります。走査型電子顕微鏡は、真空中で細く絞った電子線で試料表面を走査(スキャン)しその試料から出てくる2次電子の信号を検出してモニター上に試料表面の拡大像を映し出します。また、電子線を照射した際に出るエックス線を調べる装置をつければ試料の元素分析も行うことができます。

現在、工学部の機械系では金属の破断面を走査型電子顕微鏡で調べて、その破断状況や不純物の混入割合などを明らかにし、どのような原因で破断したのかを推測する授業を行っています。破断原因を推測できると、どうすれば破断を防げるかを考えられるからです。また、対象とする構造物が大きく電子顕微鏡とは無縁と思われる建築・土木分野でも、例えばコンクリート表面に付着した物質を調べて劣化要因のアルカリシリカゲルを見つけることなどに利用されています。
昨今ICTやAIの普及で需要が急増している半導体はナノレベルの精度が求められています。本学が目指している半導体デバイス分野の研究や教育においても走査型電子顕微鏡の出番が増えると考えています。皆さんも本学の走査型電子顕微鏡を使ってミクロなメカニズムを解明し新たな発見をしてみませんか。

1mm(ミリ)は1,000μm(ミクロン)、1ミクロンは1,000nm(ナノメートル)。1ナノメートルは百万分の1ミリです。

 


 

■Vol.66 2022年5月17日更新

身近な山にもこんな歴史が!

今年のゴールデンウィークは、おばせキャンパス近くの低山をトレッキングしました。キャンパスがある京都郡は、奈良時代に豊前国の国府が置かれるなど古代から開けたところです。近くを流れる小波瀬川沿いには、かつて草野津と呼ばれた港があり、そこから大宰府まで官道が通っていました。白村江の戦い(663年)に大敗した倭国は唐や新羅の侵攻を恐れ、7世紀末にこの官道を見渡せる御所ヶ岳(約247m)に山城を築きました。

4月30日、この御所ヶ岳から歩き始めました。行橋市の南西端にある登山口、御所ヶ谷住吉池公園から暫く登ると古代山城の中門と言われている神籠石に出会います。この山城を守った防人(さきもり)はどこから来たのか等と古代に思いを馳せながら歩いて山頂へ。山頂から眼下に広がる平野を眺めた後、北東に連なりその姿が鞍をおいた馬のように見える馬ヶ岳(216m)に足を伸ばしました。急な坂を下ってから尾根伝いに登りなおした山頂には942年に源経基によって築かれ、昨今は黒田官兵衛が居城したことで有名な馬ヶ岳城址がありました。城址からの眺めは最高で、北に平尾台、東に周防灘、南は遠くに由布岳を望め城主の気分に浸れます。

翌5月1日は自宅に近い門司の古城山(175m)を目指しました。豊前誌によると1185年に平知盛が家臣の紀井通資に命じて築いた城とされています。登山道の途中に源平合戦の説明板があり、頂上の城址から壇ノ浦を見下ろすと源平合戦の絵巻が浮かんできます。この門司城は苅田町の松山城と共に戦国時代に周防の大内氏と豊後の大友氏の攻防が何度もあった城です。

休養後の4日は京都郡と田川郡の郡境で秋月・田河街道を見下ろす障子ヶ岳(427m)にみやこ町側から登りました。この山にも足利尊氏の命で1336年に足利駿河守統が築城したとされる山城跡が残っており、豊臣秀吉の九州征伐の舞台になったという歴史を知りました。

古代から続く歴史が詰まった近くの低山、いずれも歩行距離は10km程度で所要時間は2時間半から3時間ですが、山歩きをしたという満足感も味わえます。

皆さんもいかがですか。

 


 

■Vol.65 2022年5月5日更新

共感力が身につく英文学

人の考えや感情を知り共感力を高めるには小説を読んで疑似体験することが有効と考えています。西工大が目指す人間力の原点は共感力です。そこで、今回はディケンズの小説「二都物語」(加賀山卓朗訳、新潮文庫)を紹介します。情景描写が上手く登場人物が生き生きと描写されていて共感できる言葉や行動が随所に出てきます。読み進むと人間力を高める共感力が自然に身につくはずです。

物語はフランス革命前後のパリとロンドンが舞台です。1775年11月末、無実の罪でバスティーユに投獄され記憶をなくしたマネット医師が解放されたとの知らせが英国に届きます。医師をロンドンに連れ帰る命を受けた銀行勤めのローリー氏が医師の娘ルーシーとドーバーで落ち合いパリに赴く場面から話が始まります。フランスの暴政を嫌い、爵位を捨てて英国に亡命したダーネイと酒浸りの弁護士カートンの二人がルーシーに思いを寄せています。ルーシーはダーネイと結婚するのですが、記憶を取り戻したマネット医師はダーネイになぜかフランス時代の過去を明かさないことを結婚の条件にします。幸せに暮らし始めたダーネイの許にフランス時代の使用人から「囚われの身になった。救えるのは貴方しかいない」という手紙を受け取り、内緒でパリへと出立します。しかしフランスは革命の嵐が吹き荒れ、亡命貴族のダーネイは囚われてしまいます。マネット父娘が救出に向かいますが時代の荒波に翻弄され身動きが取れません。紆余曲折の末、死刑宣告を受けたダーネイは救出されますが、カートンは身代わりとなって断頭台に散るのです・・・。

話の展開が早く伏線が随所に隠されていてハラハラどきどきの連続でサスペンス映画を見るように読み進めます。ただ、長編なので手が出ないと感じる人には同じ英国作家のシェイクスピアの作品群をお薦めします。有名な作品が多いので何を読めば良いか悩みますが、まず、ラム姉弟の「シェイクスピア物語」を手に取ると良いでしょう。

 


 

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