学長の部屋|ブログ|― 成長分野の理系学部拡充案で考える

投稿者:西日本工業大学 第11代学長 片山憲一


 

■Vol.84 2023年1月30日更新

成長分野の理系学部拡充案で考える

デジタルや脱炭素といった成長分野の人材を育成する理工農系学部を増やすための支援策を文部科学省が公表しました。3000億円の基金を活用して理系学部の新学部に最大20億円助成し、今後10年で約250学部増やす計画です。実際に工学系人材の育成を担っている立場からすると、18歳人口が年々減少する中で、新たに学部を作っただけで進学者が増えるとは到底思えません。地方の理系大学に進学予定だった学生が有名私大などの新学部に移行するだけで地方が益々疲弊するのではないかと心配です。

成長分野を支える人材確保には、まず文系、理系の壁を無くすことが必要と考えています。今の高校生は、先輩からのSNS情報で理系は文系に比べて授業料が高く、就職後は現場勤務や地方の工場勤務で生涯賃金は文系より低いと感じています。また、技術の粋が詰め込まれたiPhoneの製造原価が3万円程度で技術があまり評価されていないことも知っています。24時間対応が求められるITエンジニアは新3K職場と言われ、文系の人に使われるというイメージさえ持っています。

このようなイメージを払拭するには女子学生を増やせるかどうかにかかっています。中学時代に数学の点数が高かった女子生徒たちの殆どが高校に入ると文系に行っているからです。女性の進学者を増やすには高校までのSTEAM教育の充実と、求められる理系人材の仕事のイメージや将来性を明確にし、ワークライフバランスが取れることを示すことが重要です。

今年度工学部を新設した奈良女子大学は女子が理系に進む場合、どこにハードルを感じてるのかを調査しています。また、お茶の水女子大学は2024年度の共創工学部開設を前に理系女性教育開発機構を設置して、女子中高生や保護者にキャリアプランを提示するなど様々な取り組みを行っています。これらの取組みを通じて理系女子が増えることに期待するとともにi-Construction(アイ・コンストラクション)+働き方改革で増えつつある現場女子に注目しています。

i-Construction:国土交通省が進めている建設現場にICTを活用しようとする取り組み。
 

 

 


 

■Vol.83 2023年1月13日更新

2024年問題を考える

2024年問題とは2024年4月1日から施行されるドライバーの時間外労働時間の上限規制(960時間/年)によって生じるさまざまな問題のことです。少子高齢化が続く日本では低賃金、長時間労働のドライバーは人手不足が続いています。このため他産業では導入済み(上限720時間/年)の働き方改革の一部が猶予されているのです。この規制が実施されると運送業者は利益率が下がり運賃を値上げせざるを得ません。荷主も運賃上昇になり、運転手は残業が減り収入が減少します。

猶予中にコロナ禍となり、以前はお店で買い物していた人も外出を控えてEC市場(ネットショップ)を利用するようになりドライバー不足がますます深刻になっています。EC市場では注文はオンラインでいつでもどこでも可能ですがオフラインの物流はIT化が遅れています。このため荷主や物流施設の都合でドライバーが待機する「荷待ち時間」が生じたり、届け先が不在で再訪問が必要になったりします。各社が物流のスピードや品質を競争しているため追加料金を取ることも出来ずドライバーにしわ寄せがいっています。

この解決には「簡素で滑らかな物流」と「担い手にやさしい物流」を実現するためのDX(デジタル技術を活用したビジネス変革)が不可欠です。同時にトラック輸送されている長距離貨物を鉄道やフェリーに移すことも重要です。貨物列車は一度にトラック65台分を運べますし、フェリーは1隻で250台以上のトラックを積載できるからです。

働き方改革はドライバーなどのエッセンシャルワーカーの実態に光を当てるとともに生産性向上に取り組むチャンスでもあるのです。2024年問題は、私たち消費者にも商品配送にどの程度CO2を排出しているかドライバーに負担をかけていないかを考えるきっかけを与えてくれ、働き方や生産性向上に対する意識改革が必要なことを教えてくれます。工学やデザイン思考を学んだ人材がこれらの課題解決にも目を向けることを期待しています。

 


 

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