学長の部屋|ブログ|―日本は世界から取り残される!?

投稿者:西日本工業大学 第11代学長 片山憲一


■Vol.8 2020年1月16日更新

日本は世界から取り残される!?

NHKニュース(1月14日)のビジネス特集で、ラスベガスで開かれている最新テクノロジー見本市(CES2020)が表記ヘッドラインで取り上げられました。参加企業4,500社のうち中国企業が1,000社、韓国が300社、フランスが250社出展しているのに対し日本は70社しか参加していないことが報道されました。その中でアメリカの投資家ワイシスク氏が「日本から出展された製品に突出して魅力的なものはなかった」と語っています。また日本はこれまで技術に焦点を当ててきたが、スタートアップ企業がグローバル展開して規模を大きくするには、(1)市場に合った製品をタイムリーに投入するマーケティング力 (2)どういう課題を解決できるのかを一言で説明できるプレゼンテーション力 (3)リスクを恐れない力強い起業家精神という全く違うスキルが必要だと指摘していました。

私はこのニュースを見て、世界から取り残されないためには多様性が重要なカギを握っていると感じました。世界では今何が必要とされているのかを知り、自ら開発した製品がそれに応えられると一言で伝えるには、異文化交流の実体験がないと無理だと直感したからです。島国の日本で異文化を理解するのは至難の業です。日本人は今でも「性能が良くて安価なものは売れる」という神話を信じているのではないでしょうか。また失敗しても再チャレンジできる実態を見ることが少ない日本では起業家精神は育ちにくいと思います。

21世紀に入り世界は機能性や効率を優先するアプローチから性別、国籍、宗教などを越えて人間を幸福にするという切り口に変わってきています。シリコンバレーで従来の理数系を重視したSTEM教育にARTを加え創造力を育み共感を大切にするSTEAM教育へと進化したのもそのためだと思います。昨今、ビジットジャパンの取り組みやLCCの伸長で外国人観光客が増えていることに加え「トビタテ!留学JAPAN」の充実などで外国への壁は低くなったと感じています。若い皆さんが積極的に海外に出かけて異文化を体験し多様な考えや価値観を共有できる人材になることが将来の日本企業を創造する近道だと信じています。

注)STEM:S: Science, T: Technology, E: Engineering, M: Mathematics

 


 

■Vol.7 2020年1月6日更新

明けましておめでとうございます

年末に起きたカルロスゴーン氏のレバノンへの逃走劇のニュースを聞いて常識にとらわれていると想定外のことが容易に起きることを実感しました。15億円もの保釈金に加え日本の厳しい出入国管理体制を考えると、よもや国外脱出を企てることはないだろうという思い込みが見事に裏切られたからです。

また昨年暮れ、2019年に生まれた赤ちゃんの数が予想より2年早く90万人を割り込み86.4万人で終わるというニュースにショックを受けました。将来人口は確実に予測できるため、生まれてくる子どもの数も予想どおりになると考えていたからです。2001年生まれのミレニアムベビーが117.1万人だったことからこの間に31万人弱減少したことになります。将来の大学進学率が昨年の54.7%から60%にアップすると仮定しても18年後の大学進学者数は現状より10万人以上減少することになるのです。

一方、AI時代を支える情報分野で5Gが登場し技術革新のスピードが益々速くなることが予想されています。地球環境では大規模な山火事や世界中で頻発する風水害に象徴される地球温暖化問題が顕在化しています。また本日の日経ビジネス電子版は世界中が自国第一主義の傾向を強め米中貿易摩擦の長期化やイランとアメリカの関係悪化、ブレグジットなどの政治問題が山積し「来年のことさえ定かではない」不確実な時代になると予想しています。

このような情報過多の時代には目の前にある情報は本当に真実なのか? 思い込みを無くして疑い、多面的な情報を集めてフェイクニュースに惑わされない自ら考え行動できる人材であることが求められます。今回は自ら考え行動できる人材の第一歩となる多様な視点からの考え方を伝授する苅谷剛彦著「知的複眼思考法」(講談社)を紹介します。複眼思考により情報リテラシーを格段に高めることができ考える力がつくと説いています。

西日本工業大学は自立できる人材の育成に重点を置き「選ばれる大学」の実現に向け地道に取り組んでいます。本年もどうぞよろしくお願い致します。

 


 

■Vol.6 2019年12月26日更新

年末年始にお薦めの本(現実を正しく見る)

私は戦後の経済成長の一面を象徴する異臭を放つ川や煙突から立ち上る7色の煙を見て育ちました。大人になってからは公害克服の過程やその後の経済繁栄、バブル崩壊を経験しました。そして今は地球温暖化や少子高齢化といった新たな課題の中でAIやIoTが話題になる時代に生きています。これまで歳をとることは山登りに似ていて登れば登るほどに息切れは激しくなるが視界は広がって世の中がよく見えるようになると確信していました。ところが今年、ロスリング親子が書いた「FACTFULNESS 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」(日経BP社)を読んで考えが少し変わりました。本の中で紹介されている13問の簡単な三択問題に5問しか正解できなかったからです。例えば、「自然災害で毎年亡くなっている人の数は過去100年でどう変化したでしょう? (1)2倍以上になった (2)あまり変わっていない (3)半分以下になった」の質問に不正解でした。これは、地球温暖化で異常気象が頻発し大きな災害が増えていると思い込んでいたためでした。この本によると正解数が5問というのはチンパンジー並みらしいです。自分としては日頃から最新データをアップデートしていると考えていただけにショックでした。読み進んでいくと、どうしてそのような間違った思い込みをしてしまうのか、また間違わないためにはどうすればよいかが原因となる10個の本能別に解説されていてとても参考になりました。一読の価値ありです。

もう一冊は、河合雅司著「未来の年表~人口減少日本でこれから起きること~」(講談社現代新書)です。少子高齢化が続く日本でこれから確実に起こることを、図表を交えて年表形式で分かりやすく示しています。例えば2033年には「全国にある住宅の3戸に1戸が空き家になる」ことが書かれています。悲観的な未来は見たくないという気持ちもありますが、人口減少という現実に我々一人一人が正面から向き合って豊かさを実現させるためにもぜひ読んでおいて欲しい本です。

 


 

■Vol.5 2019年12月16日更新

新幹線で考える総合システム工学科

技術を使って「思い」を形にするのが工学です。今回は、多くの人を速く安全に目的地へ運びたいという「思い」を形にした新幹線を考えてみましょう。

新幹線構想を実現する場合はまず、利用者数を予測して規模やルートを計画します。その上でトンネルや橋梁などの構造物の費用を見積もり、経済的に収支が成り立つと判断されて初めて事業化されます。この計画から地元調整や官公庁との折衝も含め線路を敷設するまでのインフラ整備を行う仕事は主に土木工学系の人が行っています。

車両づくりは機械工学系の人たちの仕事です。条件を満たす速度で走るのに最適な流線型の形状を決めたり揺れを少なくする台車の構造を検討したりして、期限内に安全に速く走れる車両づくりに取り組みます。軽くて強い材料を経済的な観点から選定するのも重要な仕事です。

電気情報工学系の人は省エネを意識しながら速く走るためのモーターづくりや高圧電力を安全に取り扱う仕組みをなど考えます。また、何かトラブルが生じても安全に運行できるようセンサーなどで監視し異常を見つけると自動的に速度を落としたり止めたりする自動列車制御装置(ATC)などを担当します。そして、これらの異なった部門が協力してより安全性を高め、いかに乗り心地を向上させるか、設備を長持ちさせるか等について検討を重ねます。新幹線というシステムの最適解は各部門の最適解の足し合わせとは限らないからです。例えば先頭車両の鼻が長くなっているのはトンネル出口の騒音対策のためです。総合システム工学科という名前にはシステム全体を理解したうえで自分が担当するセクションの仕事を考えることが出来る人材を育てたいという思いが込められているのです。

加えてお客さんを迎える駅づくりを担うのは主に建築学科の人です。また利用者増や駅ビル店舗の販促などは情報デザイン学科と親和性が高い仕事です。新幹線という事例一つを見ても総合的に考えることがいかに重要か理解できると思います。

 


 

■Vol.4 2019年12月5日更新

「工学とデザインの融合」と産学連携協定

西日本工業大学にはデザイン学部があります。皆さんはデザインと聞いて何を思い浮かべますか。ポスターやホームページ、キャラクターなどの商業デザインですか? それとも携帯電話や車などの工業デザインでしょうか? はたまた、国立競技場や門司港レトロといった建築デザインでしょうか? いずれも表現された色や形を思い浮かべると思います。一方、キャリアデザインや食のデザインといった言葉もあります。昨今は思いもよらないものもデザインと呼ばれています。11月29日、小倉キャンパスで「北九州デザインシンポジウム2019~今、あるものを結ぶデザインとは~」が開催され、特定非営利活動法人おてらおやつクラブ理事の福井さんと監事の桂さんからクラブの活動紹介がありました。この活動は、お寺へのさまざまなお供えを仏さまからのおさがりとして頂き、子どもを支援する団体と協力して、貧困な子どもたちにおすそ分けするもので「2018年グッドデザイン賞」の大賞を受賞しました。このようにデザインには多様性がありますが、共通しているのは、課題を解決する方法を「可視化」するという点だと思います。

本学はこのデザインと技術を使って思いを「形」にする工学とを組み合わせれば新たなマーケットが生み出せると考え「工学とデザインとの融合」を掲げています。例えば、ネジチョコで話題の洋菓子屋「グランダジュール」さんと本学とはこれまでもお菓子の型づくりやパッケージデザインなどで協力してきましたが、本日新たに産学連携協定を結びました。新たな連携コンセプトはEmotional dessert「気持ちを揺さぶるお菓子」づくりです。グランダジュールさんの職人技に大学の知恵や技術を合わせて購入意欲をくすぐる新商品を開発しようというものです。その過程で「可視化」の基礎を学んだ学生がお菓子の企画開発やマーケッティングを体験します。このような取り組みから本学が目指す「自ら考え行動する技術者」を育成したいと考えています。

グランダジュールとの連携グランダジュールとの連携

写真左から:グランダジュールとのコラボで完成した商品、産学連携協定締結式

 


 

■Vol.3 2019年11月25日更新

ギラヴァンツの快進撃は基礎力の鍛え直しから

 

昨日、地元サッカーチームのギラヴァンツ北九州がカマタマーレ讃岐に4-0で勝ち、来シーズンのJ2昇格を決めました。フル出場の選手が試合終了まで当たり負けせずに走り切り、黄色のフラッグと応援のうねりは止むことがありませんでした。2018年の昨シーズンは17位と最下位でした。今シーズンの躍進は今年から指揮を執った小林伸二監督の指導の成果だと実感しています。着任そうそう成績低迷は基礎体力不足と見抜いた監督は、選手の心拍数などを計測する機器を導入し徹底的に走り込ませるなどフィジカル強化に取り組みました。選手たちには面白くないハードな練習が続きましたが、体脂肪率が練習とともに目に見えて下がり、息切れせずに1時間走れるようになったのです。体力に自信がついてくると試合の流れが見えるようになり、ボールへの執念がキープ率上昇という形になって表れてきました。相手チームとの体力差が勝利につながっていると確信できたのです。

大学における「学修の成果」も学ぶ学生の基礎力次第で格段に違ってきます。大学で学ぶ上での基礎力とは何でしょうか?私は、昔から言われている「読み書き算盤(そろばん)」が現代にも生きていると思っています。すなわち文章を読むこと、内容を理解して文章を書くこと、そして計算できる能力を持っていることです。前回、文章力の重要性について触れました。今回は計算する力についてです。小林監督が選手たちをきちんと指導できたのは、根拠となる数字があったからです。一定の練習をして負荷をかけるごとに心拍数や血圧を測り記録させます。練習を続けると数値の上がり方が減り、疲れを感じなくなりフィジカルが強化されていくのをデータとともに実感できます。データというエビデンス(証拠)があったからこそ選手たちの能力も向上したのです。西日本工業大学で学ぶ皆さんには計算する能力、特にこれからはデータサイエンスは不可欠です。「算盤」に少し不安がある学生は、近くの数学の先生に一声かけてください、学びなおしの方法を伝授してくれるはずです。

 


 

■Vol.2 2019年11月5日更新

大学時代に身に付けて欲しい文章力

 

私は大学卒業後、技術者として北九州市役所に就職、35歳以降は事務的な仕事が主で退職後は北九州エアターミナル㈱、本学と異なる分野で仕事をしてきました。どの分野でも「仕事の肝」は文章を書くことだと気づきました。仕事をする場合まず、仕事の内容を上司や関係者に説明する「起案書」(民間では企画書)作りから始まります。大体A-4で1枚、800字程度にまとめます。仕事に要する予算や緊急度、効果など判断に必要な項目を簡潔な文章で的確に伝えなければなりません。重要性が伝わらないとゴーサインが出ないからです。また仕事の途中、文章で問い合わせをしたり、回答したりします。結果も報告書という形で提出し、これらの文章で評価もされます。そこで私は学生時代に身に付けて欲しい能力の第一に文章作成能力を掲げます。

さて、文章を書くということは自分の考えなどを他人に伝えるアウトプット行為でもあり、インプット行為でもあります。文章を作成するには伝えたい情報が必要で、情報を得るには勉強や体験、取材といったインプット活動が不可欠です。授業以外のボランティアやインターンシップに参加を奨励するのもそのためです。そこで文章力をつけるためまず取り組んで欲しいことは、中身のある優れた文章に数多く触れることです。例えば必要な情報をコンパクトにまとめている新聞はとても良い教材です。毎日読むことで世の中の仕組みや経済の動向が自然に身に付くからです。新聞はハードルが高い、苦手という人は、名著と呼ばれている作品の中から興味のある本を選べばよいと思います。ここで重要な点は読んだ後に簡単な要約や100字程度の感想文を書くということです。私は大学1年の夏、待ち合わせの本屋で偶然見つけた井上靖の「蒼き狼」を手に取って以来、彼の本に夢中になりました。何をするにもきっかけが重要です。時間を作って図書館や書店を覗いて気になる本を探してみてください。文章力と読書についてはこれからも折に触れて取り上げたいと思っています。また大学でもどのように文章力を養うか真剣に考えたいと思います。

 


 

■Vol.1 2019年10月17日更新

学長になって半年

 

研究や教育に携わったことのなかった門外漢の私が、学長に就任して半年が経ちました。日本の18歳人口が確実に減少する中、その影響が大きい地方の私立大学が存続するのは容易ではないことを改めて実感しています。と同時に地域の将来を考える「知」の拠点として、地方の存続には大学の存在が不可欠であるとの思いを強くしています。それはマーケットが小さい地方の大学経営を考えている際に、以前読んだ富山和彦著の「なぜローカル経済から日本は蘇るのか」を思い出したからです。大企業vs中小企業という従来の視点をグローバル企業とローカル企業という視点で捉えなおすと、日本経済の危機を救うのは地方企業の生産性の向上であることが見えてくる点です。

今大学も大きな変革が求められていますがどのような視点で取り組むのかがとても重要と感じています。時代や場所によってその視点や解決策は異なるはずです。地域から必要とされる大学として存続するため、グローカルな視点で考え、チャレンジを続けたいと思っています。

 

これから折に触れて、学長の部屋を通じて情報発信していきます。初回である今回は、私の経歴や思考方法について知ってもらうため、昨年(公財)アジア成長研究所所報「東アジアの風」に寄稿した小論「北九州空港を活用した地域経営」を紹介します。アクセスしてご覧ください。

 

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