学長の部屋|ブログ|― 数学者と物理学者の本で知る国語

投稿者:西日本工業大学 第11代学長 片山憲一


 

■Vol.46 2021年7月28日更新

数学者と物理学者の本で知る国語

コロナ禍でも、照りつける太陽に百日紅の花が例年通り咲いています。1年遅れのオリンピックも始まり、間もなく夏休みです。今回は夏休みに読んでほしい本の紹介です。

まず、数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞受賞者の広中平祐(1931生)著の「学問の発見」(講談社ブルーバックス)です。山口県の田舎育ちの彼が数学者として大成するまでの半生記です。副題に「生きること学ぶこと」とあります。なぜ学ぶのか、大学で何をどのように学べばよいかについて彼の思いが伝わって来ます。次に物理学者、大栗博司(1962生)著「探究する精神」(幻冬舎新書)です。小難しい「超弦理論」の話が多く出てきますがそこを理解できなくとも、夢を追って学ぶ、迷ったら困難な道を選ぶことがチャレンジの原動力になることを気づかせてくれます。また数式がモノを言う物理分野でも幅広い教養が欠かせないことを力説しています。二人の文章は数学や物理が苦手でもエッセンスがすんなり頭に入ってきて読後は自分でも何かやれそうという気持ちになります。自分の頭で考え、伝えたいことがクリアーに整理されているからです。

分かりやすい文章の秘密を知るのに最適なのが数学者、藤原正彦(1943生)著「祖国とは国語」(新潮文庫)です。自分がこれからどのように生きていこうかと考えるのに役立つ30篇ほどのエッセイ集で、考える際の視点や切り口のヒントが満載です。彼の言葉に「母国語の語彙(ごい)は思考であり情緒なのである」とあります。

最後に岡潔(1901生)著「春宵(しゅんしょう)十話」(新潮文庫)です。自分を突き動かしている心、情緒について熱心に語ります。また、百年前の日本人はどのような考えで行動していたのか、日本人として守り続けるべき文化とは何かを考えさせられる本です。世代が異なる4人ですが皆留学経験があり、グローバル時代こそ国語を学び国語で考えることが重要というメッセージが伝わってきます。

 


 

■Vol.45 2021年7月15日更新

境界を超える

今年度は野球部、弓道部、バトミントン部、卓球部が相次いで全国大会に出場しました。それぞれの部が厳しいトレーニングを積んでブロック予選を突破して手にした出場です。改めて全国大会に出場した皆さんの努力に敬意を表したいと思います。ところで予選を突破したことは全国大会への境界を超えたとも言えます。国境を思い浮かべると分かりやすいのですが境界を超えるとそこは全くの別世界が広がっています。

自然界にも例えば水が氷や水蒸気に変化する相転移があり大気圧では温度が境界になっています。勿論、転移には凝固熱や気化熱というエネルギーが必要です。また、地球の大気圏と宇宙との間にも境界があり、地球の重力圏を脱出できないと宇宙には出られません。生物と無生物の間にも自己複製を行うシステムであるかどうかなどが境界になっています。

さて、境界には越えてはいけないものと越えざるを得ない境界があります。前者の例として2009年に発表された地球の境界(プラネタリー・バウンダリー)があります。「その境界内であれば人類は将来に向けて発展と繁栄を続けられるが、境界を越えると、急激なあるいは取り返しのつかない環境変化が生じる可能性がある」というもので、人類が増えすぎて地球の限界を超え始めたことを明確に示しSDGsの目標設定に大きな影響を与えました。後者の身近な例としては、すり合わせなどのアナログ技術でモノが価値を生み出してきた社会から情報が価値を生むデジタル社会へ移行する変化の中で急変する境界があります。

今回のコロナ禍で日本でもデジタル化が加速されビッグデータやAIが社会を動かす時代への急変点が見えてきました。境界を超えた世界は正解がない社会です。予選である大学時代にサーチライトとなるデータサイエンスやデザイン思考を学び「問」を立てて自分なりの答えを出す複眼思考を身に付けることが本戦へのトレーニングになります。全力で応援したいと考えています。

 


 

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