学長の部屋|ブログ|― 身近に感じるSDGs(持続可能な開発目標)

投稿者:西日本工業大学 第11代学長 片山憲一

 


 

■Vol.30 2020年12月2日更新

身近に感じるSDGs(持続可能な開発目標)

パンデミック下でも、皇帝ダリアに続いて山茶花が咲き冬の到来を告げています。アフリカや中東では異常発生したサバクトビバッタが国境を越えて移動し農作物を食い荒らしています。国連食糧農業機関(FAO)によると何千万人という人が食糧危機に直面しているそうです。なんでも増えすぎると環境が変化するだけでなく、種々のひずみが出るものです。

そのような観点で人類を見ると1960年に30億人と言われた世界人口が2000年には60億人を突破し今年は77億人を超えたと言われています。国連では2050年に97億人になるとも予測しています。人類はバッタ以上に食料を必要としエネルギー資源も使うので世界的気候変動などが頻発するのは当然の帰結です。食料やエネルギーは国境を越えて裕福な国に移動しています。世界の人々の飢えを救うための食糧は年間320万トンと言われていますが、日本だけでも食品ロスは年間約612万トン/年(2017)もあるのです。このような事実を目の当たりにして、2015年に国連サミットで持続可能なより良い世界を目指して2030年までに取り組む世界目標として定められたのがSDGsです。貧困や飢餓をなくす視点や健康、働き甲斐、気候変動に至るまで世界が抱える17項目の課題解決目標が包括的に掲げられています。

本学では、学生がSDGsに掲げられた持続可能性について意識をもった上で環境問題やリスクマネジメントを学び、設計段階から製造、廃棄までのサイクルを意識して環境負荷が小さく人に優しい商品づくりや事業に取り組める人材に成長することを目指しています。そこで「本学が目指す『SDGs』への取り組み」を各学科が掲げるとともに教養科目の中でSDGsを取り上げたり土木工学系の講義の中で環境ボランティアを実践したりしています。

学生たちがいつもと変わらぬ自然風景の中にあっても環境が確実に変化していることに気づきSDGsを意識できる若者に育って欲しいと願っています。

 


 

■Vol.29 2020年11月18日更新

コロナ禍の就職活動で感じたこと

コロナ禍、当たり前にあったことが突然無くなる時代になったことを実感しています。就職活動はリアルな企業説明会がなくなり、面接にもオンラインが導入され例年とは全く違った形になりました。また新卒の求人総数は航空業界などを中心に採用が控えられ、昨年より約12万人減少して68万人になりました。急速かつ強制的にデジタル化が進んだことで準備が整わず、学生、企業とも情報が限られる中、結果的に地元企業への就職が増えるなど守りの選択になったと感じています。幸い本学の就職率は11月に入ってほぼ前年並みまで回復し専門性を持った理系人材の求人は減っていない印象です。

変化を感じた点は新型コロナによってテレワークや時間差勤務など柔軟な働き方が求められるようになり、仕事の内容や評価基準を細かく定義して採用するジョブ型雇用が増えてきたことです。採用に当たって「この学生はどんなスキルをどのレベルで身に付けているのか」やそのプロセスが問われるようになっています。またデジタル化やAIの進化とともにホワイトカラーの仕事も変容する時代を迎えています。今後、学生が「どのようなスキルをどのようにして身に付けたのか」を明確に答えられるようコミュニケーション能力をつけて世に送り出すことが大学の最重要課題になってきました。

このような中、昨今の就職活動はその年の景気や社会情勢に左右されています。今年の卒業生が働き盛りを迎える2040年には労働者1.5人で1人の高齢者を支える時代がやってきます。コロナ禍でこれまで隠れていた未来社会の現実が身近に見えてきました。今大学で出来ることは、教養の幅を広げて自ら学ぶ力と思考力を高め、現状をきちんと認識して逆境にも対応できる学生を育てることしかありません。今回の災禍は、社会全体が日本の「未来の姿」をきちんと受け止め、未来を支える若者の就職の在り方を見直すよう警鐘を鳴らしているのではないでしょうか。

 


 

■Vol.28 2020年11月2日更新

コロナ禍の「第53回美夜古祭」に思う

大学に隣接する大熊公園の金木犀の香りが薄れるのを待っていたかのようにジョウビタキの「ヒーヒッ」という鳴き声が聞こえるようになりました。昨日は朝から大学祭準備のためオレンジのつなぎを着た実行委員会の学生たちが学内を忙しく走り回っていました。コロナ禍、開催するかどうか悩んだのですが、31日から二日間、規模を縮小し三密を避けて実施することになりました。

午前11時からの開会式を終え風船が青空に向けて放たれ大学祭が始まりました。企画した学生たちは、模擬店の数を減らしたり、大規模なコンサートをお笑いライブに変更したりして工夫してくれました。そのような中、例年にない企画として工学とデザインの融合という本学のブランドを実践するため学部を越えたイルミネーション企画を目玉に仕立ててくれました。31日は10月2度目の満月です。今年は赤く輝く火星も月に寄り添って晴れた夜空に輝きイルミネーション企画の点灯式を空から応援してくれているようで感動しました。

ところで、大学祭の「美夜古」という名前ですが、大学が所在する地名からとったものです。日本書紀によると現在の福岡県京都郡は第12代景行天皇が熊襲征伐の際、この地に行宮を置いたことから都(みやこ)と呼ばれるようになりその表記に万葉仮名の美夜古が使われたことに由来しているそうです。近くに国府や国分寺跡もあり、この地が古墳時代から各種の困難や変革を乗り越えて続いている歴史を感じます。

コロナ禍を克服しても今までとは違う世界が待っています。どのような時代にあっても、力を合わせて共通の目標に向かって困難を克服する体験は重要です。

感染予防対策のためマスクをつけて三密を避ける配慮をしながら校門で検温して案内する学生たちを見ていると、大学祭をやり遂げた体験が次世代を乗り越える力に変化し、歴史が継続することを予感しました。

イルミネーション

イルミネーション

 


 

■Vol.27 2020年10月15日更新

これからの地方大学に求められていること

先日、「観光による地域づくり勉強会」に出席するため豊前市役所に行きました。本学は平成26年から5年間、地域コミュニティの中核的存在として地域課題の解決に貢献する地(知)の拠点事業いわゆるCOC事業に取り組んだ実績があります。そこで大学側から人口減少に悩む豊前市や豊前市観光協会に呼び掛け、産学官が連携して交流・転入人口を増やす勉強会を設けることを提案したのです。

豊前市は小倉から大分方向に約40km南にある人口約2万5千人の小さな市です。南に修験道で有名な求菩提山が控え北は周防灘に面する自然豊かな所です。近年は北部九州に立地する自動車産業向けの部品メーカーの立地も進んでいますが、人口減少と高齢化(36%)が悩みの地方都市です。

ところで「豊前」という名称は律令制に基づいた国名で7世紀後半から明治になるまで現在の福岡県東部から大分県北部に用いられたものです。まさに九州を構成する国名の1つです。江戸時代に譜代大名であった小笠原氏が治めていたこともあり、廃藩置県の際に大分県と福岡県とに分割され消滅した経緯があります。このため隣接する大分県中津市とは今でも深いつながりがあります。

勉強会には地元から観光協会、市役所、商工会議所の担当者に加えいろいろなボランティア活動をされている方々約20名が、大学からは4名が参加しました。まず私から、交通拠点性を無くして人口が激減した門司港を観光地化して活性化を目指している「門司港レトロ事業」の事例を紹介しました。次に豊前市で自慢できるものを皆さんから上げてもらい、どうすれば観光客を呼べるかフリーディスカッションを行いました。見どころは多いがとびぬけた名所がないこと、信心深い人が多く空き家のリノベーションを仏壇が邪魔していること、京築ヒノキという可能性ある素材があることなど多くの共通認識が出来ました。今後、専門が異なる先生方の参加も得て議論を深めたいと考えています。

 


 

■Vol.26 2020年10月1日更新

第4次産業革命をキャッチアップする

浦賀沖に現れた黒船(蒸気船)を見て諸外国との力の差を知った明治政府は殖産興業や富国強兵策を掲げて、お雇い外国人を招聘するとともに多くの若者を留学させて技術の修得と人材育成に努めキャッチアップに成功しました。産業の主体が農業から工業にシフトし人口が都市に集中するようになりました。20世紀に入るとアメリカやドイツが石油を使った内燃機関や有機化学を発展させて第2次産業革命を起こし大量生産時代を迎えます。ここでも出遅れた日本は戦後復興期に政府主導の重点産業を優遇する計画経済政策をとり、所得倍増計画を掲げて最新鋭の生産技術・設備をあえて導入しました。企業では協調性豊かな人材が全社を挙げて品質管理などに取り組むことで生産性を向上させ高度成長を実現しました。

しかし、冷戦終結後の1990年代になるとアメリカからインターネットやGPSなど軍事機密であった情報技術が民間に開放され第3次産業革命が始まります。音声や映像データがデジタル化されコンピュータ処理が可能になりました。2001年にアップルのiPodが登場するとソニーのウォークマンが危機に瀕しました。その後、iPhoneが登場し、今やスマートフォン無しの生活は考えられない社会になりました。このような中で高速インターネットやクラウドサービス、5Gなどのデジタル革新と人工知能の進化が相まってあらゆる部門でブレークスルーをおこす第4次産業革命が始まったのです。既にAmazonやUberなどのサービスも生まれています。

与えられた仕事を確実にこなす教育が主体であった日本では見本がない新たなデジタル社会の到来に苦戦し失われた30年とも言われています。この2周遅れの現実を前に政府は今回も人材育成でキャッチアップを目論んでいます。そこで教育界に「数理・データサイエンス・AI」といった基礎力に加え人間を中心に考えてAIを使いこなす創造力豊かな人材の育成が求められていますが、現場から見ると成功の鍵は土台となる教養教育ではないかと考えています。

 


 

■Vol.25 2020年9月16日更新

オンライン授業と対面授業の併用で考える

5月の連休明けに始まった前期授業は新型コロナウィルスの感染対策の遠隔授業の構築と運用で慌ただしく過ぎ去っていきました。教職員からは無事に遠隔授業を実施できたことの安堵の声や遠隔の方がうまくいった授業もあったなどという声も聞かれましたが、大学の対応に振り回されたのは他でもない学生たちです。京都情報大学院大学の土持ゲーリー法一教授は教育学術新聞の9月8日号に寄稿し「オンライン授業が教員から高い評価を受けていることと教育効率が良いことは別問題である」と指摘し「オンライン授業は授業で最も重要なフィードバックが欠如しており、教育の質の低下を危惧している」と述べています。

そこで本学では前期終了後に実施した教職員研修会で、オンライン授業で気づいた事例を各学科系から発表してもらいました。アンケート調査の結果画面が小さなスマホで授業を受けた学生の満足度が低かった事例や課題提出・試験の工夫などの報告があり、有意義な情報共有の場になりました。中でも感心したのは、遠隔授業は学生の目が疲れることに配慮して画面の背景や文字の色、大きさを工夫したという報告があったことです。改めて多様な視点で考えることの重要性を再認識しました。これらの報告を詳しく分析して現場にフィードバックし今後に生かしたいと考えています。

間もなく、後期授業が始まりますが、今期もウィズコロナでキャンパス内の学生数を定員の半数以下に抑えるため遠隔授業と対面授業との併用で進めます。現在先生方に遠隔授業導入後の教育ポートフォリオを作成してもらっていますが、今後、学生にも学修ポートフォリオを導入して授業デザインの見直しが出来ないかと考えています。各講義を遠隔か対面か二者択一で選択するのではなく、それぞれの良さを生かしたハイブリッド型で行うなどして学修成果を上げることが、学生や保護者の満足度を上げることにつながると考えています。

 


 

■Vol.24 2020年9月4日更新

Withコロナのデザイン

8月29日(土)朝6時半からRKB毎日放送「発掘ゼミ」で表題の番組が放映されました。本学情報デザイン学科の梶谷ゼミが「Withコロナ」の日常を自分ごととして、いかに楽しく過ごすかを形にしたプロセスを紹介した番組です。これまで「今までにない価値を創造し発信できる人材を育成するのが情報デザイン学科です」と説明しても何をやっているのか、なかなか伝えにくかったのですが、この番組では伝えたい内容の一端がうまく紹介されています。これまで経験したことがない「コロナ」という題材を使って、自分が楽しいか?快適か?などを判断基準に考えながら新しい日常の過ごし方を提案していく学生の生き生きした姿が印象的でした。

本学では工学とデザインの融合を掲げていますが、なかなか「その心は?」の部分が伝えにくかったのです。今回の放送で「With○○」というキーワードを使えばデザインの部分が明確になると感じました。それを形にするのが工学です。北九州市に本社があるTOTOの製品群に「融合」のいい事例があります。見た目のデザインだけでなく快適性や健康をキーワードにしてアクアオートや自動洗浄などの非接触技術が搭載された機種です。メジャーな例ではアップル社のiPhoneがあります。技術的に多機能を実現しただけでなくその洗練されたデザインや「自分ごと」の視点で設計されたタッチパネルやアプリは革新的でした。

日本は「With災害」列島です。本原稿を書いている今まさに、最強の台風10号が九州に近づいています。今や携帯電話はライフラインになっています。災害とどのように付き合っていくのかを考えたりするのも「工学とデザインの融合」の精神にピッタリです。

前例のない課題に対してこれまでとは違った多角的な視点から解決策を出すデザイン思考が出来る人材の育成。トライアンドエラーしながら大学一丸となって実現していこうと考えています。

 

紹介したテレビ番組はこちら

 


 

■Vol.23 2020年8月18日更新

文学って何だろう?

理工系の大学では、文章力をつけるために本を読むことは勧めていますが、意識してアクセスしないと「文学」に触れることはほとんどありません。海外では工学系の学生が第二専攻として創造性を育む文学を学ぶ例が多いと聞きました。そこで文学部ではどのようなことを学べるのか検索していると、元大阪大学文学部長金水敏氏の言葉に遭遇しました。「文学部の学問が本領を発揮するのは、人生の岐路に立ったときと考える。苦難に直面した時にその苦難を客観的に捉える事が出来る。その苦難から自由でいられる人間の人間として自由であるためには直面した問題を考え抜くしかない。その手がかりを与えてくれるのが文学」というもので、これまで思いもしなかった定義でとても腑に落ちました。

次にどのようにして本を読めば「文学」を体感できるか調べていて出会ったのが廣野由美子著「批評理論入門」(岩波新書)です。メアリー・シェリー著の怪奇小説「フランケンシュタイン」を読み解きながら小説の味わい方を解説した本です。これまで小説は面白いかどうかで判断していたのですが、読後は心の動きや時代背景なども意識して物語が立体的に見えるようになりました。これに味を占めて同著者の「ミステリーの人間学」(岩波新書)も続けて読みました。この本には読書を通じて直面した問題を考え抜く視点が示されていました。

何はともあれ、まずは皆さんに興味を持った本を手に取って欲しいのです。何を読めば良いか思いつかない人には地元の直木賞作家、葉室麟さんの小説を勧めます。少ない登場人物で地元が舞台になっている作品が多く、映画を見るように物語が進展するからです。例えば「秋月記」「無双の花」「銀漢の賦」「散り椿」などが手に取りやすいと思います。巣籠もり時間が増える中、「人生の岐路に立ったとき」に力を発揮するだけでなく、本の話で思わぬところで人間関係が繋がることもある文学に目を向けてみませんか。

 


 

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